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障害者の芸術活動を支援し、地域の人材育成や基盤整備をする方法

エイブル・アート・ジャパン

エイブル・アート・ジャパンは、1995年から「エイブル・アート・ムーブメント(可能性の芸術運動)」を提唱し、アートの可能性や人間の可能性を再発見する活動をすすめている。障害のある人たちが表現活動を通じて自らを表現する機会をつくること、障害のある人たちに対する社会的なイメージを高めること、また子どもや高齢の人をはじめすべての人が表現の楽しさや自由を再発見し、本当の意味で豊かな社会や文化を創造することをめざして活動している。
2011年の東日本大震災をきっかけに東北事務所を開設。緊急支援から入り、復興に向けた取り組みを行う中、東北における障害のある人のアートやデザインの価値を入れた活動が限られていることに課題を感じていた。そんな折、厚生労働省の「障害者の芸術活動支援モデル事業」を活用し、宮城県ならびに東北全体の障害者の芸術活動支援を行った取り組みを紹介する。
(2015/6/11シーズ取材)

ビフォーアフター

ビフォー

東日本大震災が発災し、多くの人の「仕事」が失われたが、障害者の仕事については特にそうだった。また、発災前から東北ではアートやデザインをとおして障害のある人の仕事をつくり自立を支援する活動が少なかった。問題意識は次の3点に集約される。(1)県内の文化活動に対し、障害者の文化活動の充実度に差がある。(2)中間支援組織がないため、芸術活動のノウハウを共有したり、相談・人材育成する仕組みがない。(3)仙台市に資源が集中しており、宮城県内での地域格差があった。

アフター

事業の実施を通して、障害のある人、デザイナー、アーティスト、福祉施設、地域コミュニティ、支援者等の地域での連携が生まれた。障害者が当たり前に文化活動を楽しむ仕組み作りを行い、その中で生まれた作品を商品展開できる流れをつくることができた。
事業を実施したことはプラスの評価に働き、今後、オリンピック・パラリンピックの機会も契機にしながら、未来に向けての事業提案に活かすことができるだろう。

手順

1. 制度活用に向けた準備

2011年の東日本大震災の発災をきっかけに東北事務所を開設。支援に入り、救援期には障害のある人の芸術活動による生きる力の取り戻し、復旧期にはデザインの力をいかした商品開発や工賃アップ支援に取り組んできた。そんな中、東北でのアートやデザインの価値を入れた活動が少ないこと、障害者とともに文化活動を楽しむ機会が少ないことへの課題意識があった。
障害者の芸術活動を支援する国の審議会に、エイブル・アート・ジャパンのネットワーク団体であるたんぽぽの家がメンバーに入っており、国の政策の動きを2013年時点で掴んでいた。
応募には都道府県からの推薦が必要なことから、事前に密な情報提供を行い、公募が始まり次第、推薦してもらえる準備を整えた。

2. 障害者の芸術活動支援事業への応募

平成26年、「障害者の芸術活動支援モデル事業」の公募が始まり、その内容は、障害者の芸術活動の支援を推進する観点から、芸術活動を行う障害者及びその家族並びに福祉事業所等で障害者の芸術活動の支援を行う者を支援するモデル事業を実施し、その成果を普及するというものだった。
進めてきた準備を活かし、エイブル・アート・ジャパンは(1)相談窓口の設置、(2)人材育成のための研修、(3)関係者のネットワークづくり、(4)参加型展示会の開催、(5)都道府県との連携、(6)協力委員会の設置の6プログラムを盛り込んだ事業を提案した。やりたいことはハッキリしていたし、溢れるほどあった。現地ニーズも捉えており、申請書を書くことに苦労はなかった。
しかし、各種規程を整備するのには時間がかかった。旅費規程、給与規程、謝金規程など、国の事業を受託するには諸規程を整備しておくことが求められ、苦労した点だった。しかし、この時に整備できたことは良い機会ともなった。

スウブ展
スウブ展

3. 障害者の芸術活動支援事業の実施

8月末に、採択の書類が届いた。9月から翌年3月までの半年間の事業期間だった。短い期間で事業実施することになったが、現場のニーズとNPOの貪欲さから、事業数を減らさなかった。
また、NPOとしてのこだわりもあった。これをやりなさいというルールをクリアしつつ、やりたいことは担保する工夫をした。参加型展示会は、1回でいいのに、2回開催した。ワークショップに至っては10回も開催した。調査発掘をする事業は不採択だったが、現場の必要性から自主的に実施した。

すんぷちょワークショップ
すんぷちょワークショップ

4. 成果と振り返り

厚労省事業を取ったことをきっかけに、会計事務所に会計事務を委託した。国の補助金は、民間の助成金使途などと比べると、予算の使い方を厳格に守っていく必要があり、そのルールを覚えられた。
事業の実施にあたり地元で人を育てていった。震災後の復興活動の最初は、東京のクリエイターに依頼をしたのだが、いろんなスキルの差があれども、現地で人を育てることで、地元の講師陣、関係者とのネットワークが厚くなった。また、かなりの頻度でプロジェクトを行ったことで、当事者からの相談は増えた。
今後、協力体制をどう定住化させていけるのか、また、拠点を置くこと、団体の自立についても考えていく時期となる。

成果と振り返り

コツ

・国の施策は、組織のミッションややろうとしていることに近づくならやると良い。しかし、組織存続のためとか、お金のためだけでは、後が苦しくなる。補助金によっては額が莫大なため、盲目になる怖さがある。しかし、ミッションに照らし合わせ、組織の規模やスピード感に応じた適切な規模を利用することも大事である。
・NPOの自立のためには、国の施策の活用も良いが、民間との連携を意識しなければいけない。地元の企業を口説いて社会貢献してもらう動きをつくることが大事だ。

NPO法人エイブル・アート・ジャパン 代表理事 柴崎由美子 東北事務局スタッフ 武田和恵

NPO法人エイブル・アート・ジャパン
【代表理事 柴崎由美子】
宮城県仙台市生まれ。1997年より奈良・たんぽぽの家で障害のある人たちの表現活動にかかわる。障害のある人とコミュニティのための「たんぽぽの家アートセンターHANA」(奈良)のディレクター(2004年4月~09年3月)を経て、障害のある人のアートを社会に発信し仕事につなげる「エイブルアート・カンパニー」事務局(2007年~)。NPO法人エイブル・アート・ジャパン事務局(2012年~)。障害のある人とともに、社会に対して新しい価値を提案するプログラムや仕組みは何か、絶えず探求し実践していくことをライフワークとしている。

【東北事務局スタッフ 武田和恵】
山形県山形市生まれ。東北芸術工科大学デザイン工学部卒業。学生の頃、障害のある人のアートに触れたことがきっかけで、「障害のある人に関わりたい!」という一心で山形市の福祉施設で働き始める。2012年4月から一般財団法人たんぽぽの家のスタッフとなり、東日本大震災復興支援プロジェクトの東北現地事務局として、被災地の障害のある人の仕事の復興支援に携わっている。2014年からNPO法人エイブル・アート・ジャパン東北事務局として、宮城県において「障害者の芸術活動支援モデル事業」を実施し、2015年度、2年目の事業に取り組んでいる。

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本記事は、2015年08月31日公開時点の情報です。記事内容の実施は、ご自身の責任のもと安全性・有用性を考慮してご利用いただくようお願い致します。
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