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【セミナー報告】 3/26 これだけは押さえよう!「NPOの政策提言/アドボカシーを成功に導く10のポイント」

2012.04.06

1.実施概要

                                                   (敬称略)

タイトル

これだけは押さえよう!「NPOの政策提言/アドボカシーを成功に導く10のポイント」   自己診断・相互診断チェックリスト 

 

日時

2012年3月26日 14:00~16:00

場所

中野サンプラザ研修室10

(東京都中野区)

 

主催

NPO法人シーズ・市民活動を支える制度をつくる会

参加者

40名

講師

シーズ:松原、北澤

当日

スタッフ

シーズ:松原・大澤・池本・鈴木・榎本・大庭・北澤、山本、坂本

助成

三井物産環境基金

 

プログラム

14:00-14:02

はじめに

主催者あいさつ

14:02-14:15

政策提言の課題

三井助成事業からわかったアドボカシー活動の課題

14:15-15:45

アドボカシーを成功に導く10のポイント

アドボカシー活動のポイント解説、ワークシート作成

 

15:45-16:00

まとめ

ワークシート発表とまとめ

 

 

 

DSCF3164.JPG

 

 

 

2.セミナー要旨

(1)あいさつ (シーズ北澤)
 主催者よりセミナー開催の挨拶。今日の進行について説明を行った。

 


(2)政策提言の課題(シーズ北澤)
 三井物産環境基金からの助成事業「環境NPOのアドボカシー能力向上事業」の中で行なったアンケート調査などから見えてきた、環境NPOがかかえるアドボカシー活動の3つの課題と、環境NPOのアドボカシー能力向上に向けたシーズの取り組みについて、シーズ北澤より説明を行った。

 ( アンケート調査の詳細はコチラ )

 

■課題1) 合意形成の主導権を持っていない
 アンケートでは、問題を把握するための「調査・研究」や「解決策の検討」、またミーティングなどによる「団体内部の意識統一、課題の共有」、「公衆へのキャンペーン」などの活動は、積極的におこなっていた。その一方、「利害関係者(ステークホルダー)の整理・拡大」などの活動は少ない。アドボカシーでは、反対の立場の団体や個人を含め、様々な立場の人を巻き込むことが肝心だが、それができていない。このままでは、仲間内での合意は取れても、相対する立場の団体・個人も含めた社会的な合意形成には至らず、課題解決に結びついていかない。そのため、ステークホルダーの整理や拡大に積極的に取り組み、社会的な合意形成をつくりあげるプロセスをふまえて、アドボカシー活動を進めていくことが課題といえる。

 

■課題2) 「手順」に対する理解不足
 アンケートでは、今後取り組みたい活動として「ステークホルダーの整理・拡大」について関心が低かった。課題解決に向けて、誰をいつまでにどのように説得し、どう動いてもらうか、戦略を立てることが大切だが、このままでは戦略的な活動を進めることはできない。ロビー活動の結果の中間評価や事後評価、フォローアップの活動なども含め、アドボカシーの基本的な手順への理解を深めることが課題となっている。

 

■課題3) 活動を支えるファンドレイジング
 目前の問題に対し、対処療法的に取り組むことも必要だが、問題を根本的に解決することも大切。アドボカシーは、社会の体制、制度がうまく機能していないために起きる課題を、根本的に解決できる手段。アンケートではほとんどの団体が政策提言が必要とはいっているが、実際に、政策提言を活動の中心にすえている団体は非常に少ない。必要と感じながら、副次的な活動にとどまってしまう理由として、スタッフや資金不足を挙げた団体が多い。その意味で、アドボカシー活動を支えることのできる組織づくりが重要な課題である。

 


(3)アドボカシーを成功に導く10のポイント (講師:シーズ松原明)
 アドボカシーを成功に導く10のポイントを松原より解説。解説の後に、30分程度の時間をとり、ワークシートの記入をおこなった。

 

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【講義のポイント】(主なもののみ記載)
・アドボカシー活動を既にやっている団体は少ないようだが、これからやりたいと思っている人も実験ということで取り組んでほしい。
・アドボカシーの工程については、シーズのブックレットシリーズ12【工程編】13【事例編】で、かなりしっかりと書いているので入門編はそれを見て欲しい。本日は、それを機能させるためのアドボカシーのややこしい人間関係について話をする。本日話をする10のポイントに優劣関係はなく、相互に関連するものもあるが、大切なことなので重複はご容赦いただきたい。

 

 

【表】(アドボカシーを成功に導く10のポイント

 1.アドボカシーは明確な目標を獲得するためにある。
 ○アドボカシーは明確な成果を出すために行います。
 ○アドボカシーでは受益者の利益が最優先事項です。
 ○アドボカシーでは諦めることが前提です。
 ○アドボカシーは行動です。
 2.アドボカシーは独特のバトル/ゲームである。
 ○アドボカシーは、従来の利害関係に変化を生み出すものです。
 ○「戦い」はアドボカシーの基本的特性です。
 ○アドボカシーは先手優位です。
 ○バトル/ゲームのルールは基本的に与件です。
 ○アドボカシーには審判が必要です。
 ○アドボカシーではスケジュールは与件です。
 3.アドボカシーはチーム戦である。
 ○アドボカシーはチーム戦です。
 ○3つのマネジメントが必要です。
 ○自分と他者の貢献・役割を理解することが求められます。
 ○参加者の満足は目的への貢献に焦点を合わせます。
 ○相手もチームであることを理解しましょう。
 ○相手を知り、己を知らば百戦危うからず。
 ○チームでは内部闘争が頻発します。
 4.アドボカシーは交渉事である。
 ○アドボカシーは交渉事です。
 ○妥協は不可欠の要素です。
 ○「身内の論理」は通用しません。
 ○決めたことと段取りは守るべきです。
 ○交渉担当者がきちんと交渉できる内部環境を担保しましょう。
 ○はしごを外さない。
 ○アドボカシーを個人の政治家・政党に任せてはいけません。
 5.アドボカシーは他力本願である。
 ○アドボカシーは基本、他力本願であると了解しましょう
 ○他力本願のために自分のできることを理解しましょう。
 ○アドボカシーは情報戦です。
 ○三角関係を作り出しましょう。
 ○誠実であることが求められます。
 ○フェアであることを呼び掛けましょう。
 ○私欲も計算のうちです。
 6.アドボカシーは結果責任である。
 ○アドボカシーの結果は自分自身に帰します
 ○目標を獲得できなければ失敗です。
 ○責任を持つために自分を超えたチームを作りましょう。
 ○場合によっては断絶も必要です。
 7.アドボカシーには工程がある。
 ○アドボカシーは基本的には長い工程がかかります。
 ○アドボカシーの工程はバトルステージに分解できます。
 ○全工程を通しでシェアしないとトラブルになりやすい。
 8.アドボカシーには資源が必要である。
 ○アドボカシーには、コストがかかります。
 ○アドボカシーには人材が要ります。
 ○アドボカシーには時間が要ります。
 ○アドボカシーには「賭ける人」がいります。
 ○新しいテクノロジーを活用しましょう。
 9.アドボカシーのリスクは誰かが負わなければならない。
 ○リーダーシップとリスクを誰かが負わなければなりません。
 ○決めたことには責任を持つ覚悟が必要です。
 ○外部や協力者に対する責任を考えることが求められます。
 ○スピードとタイミングは極めて重要となります。
 10.アドボカシーでは成果のフィードバックが必要である。
 ○成果は小まめにフィードバックしましょう。
 ○記録をしっかりつけてシェアしましょう。
 ○失敗もきちんとフィードバックしましょう。
 ○成功・失敗の責任を明確にしましょう。
 ○個人や組織が成果を独占しないようにしましょう。
 ○リーダーシップやリスクを取ってくれた人を評価しましょう。
 ○次のステージに備えましょう。

 

 【講義メモ】

■項目1. アドボカシーは明確な目標を獲得するためにある。
・アドボカシーが何らかの成果を上げるというのは、何らかの状態に変わるということ。何も変わらなければ、アドボカシーが終わったとはいえない。そういう意味では、受益者の利益につながる明確な目標設定が必要であり、ビフォーアフターがはっきりしていることが大事。そうでないと、やってもあまり効果がない。
・その変化を起こすために、いつ誰にどう動いてもらえば課題が解決するかを考え、さらにその人を動かすためには誰にどうはたらきかければよいか、玉突き的に働きかけていくことが求められることも多い。ビリヤードのナインボールと同じ。アドボカシーは多対多のゲームなので、目標となるビリヤードのボールが何かを決めておかないと、皆の動きがバラバラになってしまう。目標が何か、固有名詞で示せることが大事。
・大きな目標としては、自然環境の保全云々でもいいが、アドボカシーで達成したいことは具体的に(短期目標で)。いきなり10合目にはいけない。あなたにとっての1合目の短期目標は何か、一つ一つクリアしていかなければならない。
・アドボカシーは外に向かって働きかけること。アドボカシーは自分の意見を述べることではない。アドボカシーはチームを作って、人を巻き込み、しくみを変えるのだから、自分の意見がどうであろうと結果を共有するものである。
・アドボカシーはあきらめることが前提。これはシビアにいうが、多くのNPOが機能不全に陥る原因として、環境保全を掲げたことがあらゆることに手を出してしまっていること。この社会はいろいろな利害が複雑に絡み合っているので、何かの利害を調整しようとすると、他の利害が浮かび上がっている。
・一つの組織でいろいろなことをやるのであれば、部門を分ける必要がある。それを最初からリスクヘッジするためには、最初からあきらめることが大事。
・行動すること。議論で終わったら意味がない。

 

■項目2. アドボカシーは独特のバトル/ゲームである。
・アドボカシーは基本的に戦いだが、ゲームの要素がある。そのため、ルールが与件されており、審判(ルールあるフィールド)もある。NPO制度に関するシーズのアドボカシーの場合、審判(活動フィールド)は国会、議員立法や行政の決定プロセスといったルールがあり、ゴールは衆参議員で過半数をとること。自分たちがどこにフィールドを置くかは大事。ゲームは、いくつかのステージを経てゴールとなる。リーグ戦のようなもの。一つずつ勝っていかなければならない。
・アドボカシーは戦いであり、ゲームではあるが、交渉ごとでもある。なので、喧嘩をしてはいけないし、譲ってはいけないところもきちんと決めておかなければならない。ここは削ってはいけないということをチームで合意しておかないと、すぐ内輪でもめて分裂してしまう。
・アドボカシーは先手優位。特に相手よりも力の弱い市民団体には大切。仕掛けられることも多いが、場面を区切って局面で先手をとる。何かが起こったらまずは考えて、分割し、自分が先手を採れるところを見つける。
・ルール無用の戦いの持ち込んでしまわないように、既存の社会的な課題解決方法や法制度を最大限活用する。例えば、政府の予算スケジュールや議員立法、裁判といった社会的なプロセスを無視すると、活動は破綻するだろう。
・アドボカシーには審判が必要。議会、選挙、裁判、国際機関など、社会的合意形成もしくは紛争解決の手段がある。失敗でも結果は出た方が良い。でないのは、もっともよくない。
・スケジュールは与件であり、自分たちの自由にはできない。選挙、国会の審議日程、法律の施行日、国際情勢など、あらゆることを想定しておく。

 

■項目3. アドボカシーはチーム戦である。
・アドボカシーは一人ではできない。どういう布陣でやるのを考えなければならない。スポーツと同じで、相手がどういう布陣やリソースをもってるかを分析し、こちらの布陣を決めなければならない。相手のチームを理解し、自分のチームを理解して、チームを作っていく。
・ここで3つのマネジメントが必要。1つはチームマネジメント、2つめはバトルマネジメント、3つめはゲームマネジメント。どうやってステークホルダーを味方につけ関心を得るか、マネジメント能力が重要。
・アドボカシーの工程の局面ごとに、誰に何をやってもらえばよいか、役割分担は変わる。チーム内で、自分・他者の貢献・役割を理解しておくことが大切。
・相手もチームである。NPOは脆弱で小さな組織だが、身動きのとれない省庁より強いパワーを発揮できることもある。相手の弱点をちゃんと見る必要がある。相手を1つの省庁だけに設定して闘っていると、それは相手の思うつぼ。

 

■項目4. アドボカシーは交渉事である。
・交渉では、相手との基本的信頼関係が築けるかどうかが重要。たとえ対立する相手でも信頼関係が築けなければ交渉できない。そのために、一度決めたことや段取りはきっちりと守る。相手との交渉で決めたことを、後で内部でひっくり返す「後ろから撃つ」ことはしない。
・交渉担当者がきちんと交渉できるように、内部でしっかりと議論し、一つ一つのことを曖昧にしたままにしない。
・はしごは外さない。国会議員は妥協し折れてくるのが当たり前。せっかく協力してくれたのに、市民が「何で折れてきたんだ」といってしまう。国会議員が闘っている間に、他の人を自分たちが説得する。十分シミュレーションが必要。

 

■項目5. アドボカシーは他力本願である。
・市民活動は他力本願。他人が動けるような状況を生み出すことが大事。アドボカシーも一緒。困っている状況を知らせ、自分に何ができるかという状況をシェアすることが大事。そのためのしくみを整えることが大切。
・アドボカシーは情報戦で、現代ゲリラ戦である。情報を持って、ランダムで戦いが起こるのが理想型。その主体性が大事。そのためには、共通の目標を持って、命令ではなく自発的に動けることが大切。
・一対一関係は普通あり得ない。政府と市民団体では政府が強い。政府に勝てるが市民団体には弱い組織を入れ、グーチョキパー関係にする。三角関係を複合的にどれだけ作ることができるかが、アドボカシーでは大事。それを複雑にすればするほど、相手は手が出せない。
・誠実であること。アドボカシーは他力本願なので、それを成立させるためには、誠実でなくてはいけない。嘘はつかない、ただしすべてを話す必要はない。
・フェアであること。プレーヤー同士がフェアでないとゲームが成立しない。相手がラフプレーになっても、こちらはフェアで。

 

■項目6. アドボカシーは結果責任である。
・アドボカシーは人のせいにしてはいけない。でも最終的には、自分がきちんとできるかだ。いろいろな状況が起きるのは、織り込み済みでアドボカシーをする。止めることも含めて結果責任となる。目標を達成できないのに、「よかった」といってはいけない。ただし、失敗は失敗を認める事が大事で、それを次の続けることが大事。逃げてはいけない。
・チームを作るということは、自分ではどうにもならないことがあることを認めること。自分が倒れても動けるチームを作っておく。
・どうしても今のチームでは成果がでない時には、チームをつぶすことも必要。体制を組み直す。

 

■項目7. アドボカシーには工程がある。
・アドボカシーには、工程がありPDCAがある。そのプロセスをきちんと踏むことが大事。また、分割して局面性を持たせることが大事。社会的なプロセスを理解して、それに合わせて提案する。

 

■項目8. アドボカシーには資源が必要である。
・アドボカシーをする団体は、人の問題、金の問題を軽視しやすい。金を用意して、安心してスタッフがアドボカシーに専念できるようにすることが大事。それを最初にどれくらいめどがつけられるのかが大事。
・アドボカシーにはお金がかかる。NPO法クラスの法律をつくるのに、約3000万円、5年ぐらいかかる。その6割は人件費。これは2--3人をアドボカシーに専念させるということ。お金や優秀な人材のリクルートが必要。
・自分がどう時間をかけるのかを、どう成果を挙げるのかを設定することが大切。
・ソーシャルネットワークなど、新たなテクノロジーは活用する。

 

■項目9. アドボカシーのリスクは誰かが負わなければならない。
・自分がリスクを負わなければ、人を巻き込むことはできない。自分の責任を負う範囲を決める。
・スピードとタイミングが大事。現場に責任を持たせ、その場で判断できるようにしないとタイミングを逃してしまう。

 

■項目10. アドボカシーでは成果のフィードバックが必要である。
・いろいろな人が自発的にアドボカシーにかかわれる状況をつくるためには、こまめに途中経過や評価を伝え、ステージの終了(目標を達成したこと)や勝ち負けを共有し、各自の次の行動・判断へとつなげていくことが大切。
・アドボカシーを引っ張ってきた団体が、その活動で創りだした制度によって利益を受けるようになっては駄目。そうなると、次の制度改革が必要になった時に、その団体が障害となってしまう。
・自分の大事なことは何か?これは自分が行うことでどういう意味があるのかを押さえないと、人生の浪費になってしまう。


(4)質疑応答
 講義後、2人1組となって、ワークシートの記入と相互共有のための時間をとった。参加者のなかから、ワークシートを多く埋めることのできた3名を選んで記入内容を発表してもらい、それに対して講師がコメントを行い、ポイントを確認した。

発表の概要
①日本に来ている難民のサポートをしている。目標はもっとも進んだ難民保護制度をつくるということ。そのためのチームづくりをしている。具体的には、難民が人として暮らしていける尊厳を守ること。したがって、受益者は難民。最初にミッションとしては、新しい制度をつくるためのラウンドテーブルをつくること。今の現状では、テーブルがない。主要な敵は、外国人が嫌いな人。ラウンドテーブルをつくるために、政府を説得するために、NPO側で組織を作る。内閣官房に最初につくる。それを2年後までにつくりたい。お金は、まだ考えていない。自分がかけられるものは、何でもできる。
②小1の壁問題を解決する。具体的には、民間学童をたくさん作る。受益者は共働きの親としている。月3万円ぐらいで、学童を提供。遅くまで開所している学童を実現したい。そして、ゆくゆくは都型の学童を民間でできるようにする。そのために、代表が区議になったので、まずは区議会から圧力をかける。相手は、区議会、文科省、厚労省。交渉で譲れないところはまだ見えない。資金は、理事長のコンサルタント会社で稼いでいる。自分がかけられるものは、20代の人生。
③外来生物を減らす(アカミミガメ)ことに、まずは都市部から取り組みたい。受益者:自然を愛する人、被害を受ける農家。お金は未定。10年後位をめどにしたい。
 →戦略の整合性が重要。受益者のビフォーアフターをしっかりしないとこけてしまう。
④耕作放棄地を有効活用したい。
 →一つできないで、二つやろうと思わない。並行してやろうと思ってはいけない。モデル地区からやるのか、一挙にやるのか。それによって、闘う相手が変わる。絞らないとロジックは立たない。あれもこれもやるとうまくいかない。

 

•(松原)アドボカシーを成功に導くためには、目的を具体的に、相手にストーリーができるように一歩を踏み出さないと、ゴールにたどり着かない。