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堂本暁子さん(前千葉県知事、元参議院議員)

2011.12.01
市民の行動力を高めて、環境政策をよりよい方向へ
〜環境アドボカシー実践、成功の秘訣とは?

今は、地球環境の大きなターニングポイント。
みなさんの行動で社会を動かしましょう!
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堂本 暁子さん 前千葉県知事
聞き手:NPO法人シーズ・市民活動を支える制度をつくる会 北澤 哲弥
2011年6月30日 堂本暁子氏宅にて収録

 記者、参議院議員、国際環境機関の理事、千葉県知事、そして市民活動の一員として、環境やジェンダーなどの問題に早くから取り組み、中枢機関を動かすことで社会に変化をもたらしてきた堂本暁子さん。さまざまな提言を受ける「中央」と、そこに働きかける「市民」の両方を経験している稀有な存在です。日本の社会は、市民による政策提言(アドボカシー)はまだまだ未成熟。しかし、そこが強化されれば、大きな変革が期待できます。これから私たちは、どのような意識で、どう行動していけばいいのか。環境という視点に絞っておうかがいしました。

 
◎市民活動の意義
市民活動が活発にならなければ公正で暮らしやすい社会はつくれない


―堂本さんは、1998年のNPO法(※1)の立ち上げ時に参議院議員として法律の成立に尽力されました。この法律によって日本の市民活動は大きく動き始めましたが、堂本さんの考える市民活動の姿とはどのようなものでしょうか?

堂本:現状の課題に気付き、解決したいという人たちが互いに共感し、よりよい方向へ動かしていく方策を考え合う、それが市民活動だと思います。市民団体のシーズ(※1)がNPO法を成立させるために尽力したように新しい制度を作るための行動が必要な場合もあるでしょう。
 環境に絞って言うならば、人間のためだけでなく、鳥や水草、石、水、空気などすべての存在の声に耳を傾け、彼らの言葉を代弁し行動するのが市民活動だと思います。もしも動物や植物、昆虫たちが人間の言葉を話せたとしたら「このままでは、生きていけないよ。助けて!人間はもっと考えて!」と叫んでいると思います。
 私は行政側と市民活動の両方を経験してきましたが、どの立場でも私の中心には、すべてのものが暮らしやすい世界にしたいという想いがあります。

―市民活動というと行政や企業の活動への反対運動というイメージを持つ人も多いですね。

堂本:日本の市民活動は水俣病などの公害問題で、行政と対立する形でスタートした経緯があり、「反体制」というイメージがついてしまった部分があります。行政や企業に問題の根がありましたから、どうしてもそういう図式になってしまったんですね。これは市民活動にとっても不幸な歴史だと思います。でも本来の市民活動というものには、おおらかで楽しめる部分もあるんですね。私はそこも重要だと感じています。いい市民活動が多く行われることで、市民全体の意識が変わり、市民活動のステータスが確立されていってほしいですね。
 今起こっている環境問題に目を転じてみると、過去の公害問題とは異なって、現代に生きる全ての人に責任があるように感じます。たとえば個人がなにげなく買う食品が、遠い国の自然を破壊している場合もあります。現代のような地球規模の環境問題を解決していくには、官と民が対峙する形ではなく、一緒にやっていく必要があります。行政の判断が正しく行われることが一番大事ですが、行政の気付きがない部分は市民がどんどん指摘していかなければならないと思います。

―その指摘の方法には、いろいろありますが、提言書を出すなど自分たちの意見を相手に届けるためのアドボカシー活動は非常に重要で有効だと思います。しかし、日本ではアドボカシー活動は、雲の上のことで自分がやることではないと考えている人がまだまだ多いのが現状です。

堂本:みんながアドボカシー活動をやるべきだと思いますね。アドボカシーは、ちょっと抽象的な印象もあるので最初は難しく感じられるかもしれません。しかし、ある特殊な団体が行政に物申す、という類のものではなく、もっと日常の生活に根付いたものであって欲しいと思います。
 アドボカシーを行うための前段階の話になりますが、私は市民活動やアドボカシー活動の土台は、市や町、村などの最小単位である基礎自治体の地方民主主義(ローカルデモクラシー)だと思っています。それが発達すると市民活動は活発化する。ここで注意したいのが、昔の村社会と地方民主主義は、違うということ。たとえば村社会でありがちなのが、選挙の際に政策を全く見ずに、地元の実力者ということだけで慣例的に選んでしまうケース。環境に無関心の議員にいくらロビー活動(※2)をしても、効果がない場合が多い。守りたい自然があって、調和のとれた自然環境を作りたいと思うならば、地方民主主義にのっとって、きちんと公約を打ち出せる人を選挙で選ぶことが大切です。

※1 NPO法とシーズ:正式名は、特定非営利活動促進法。民間の非営利団体の活動を促進するために団体に法人格を与えるなどを認めた法律。1998年に成立し、2011年6月には大幅改正が行われ、税額控除や新しいパブリック・サポート・テスト(絶対値基準:3千円以上の寄付者が100人以上)が創設された。この法律の成立、改正では、NPO法人シーズ・市民活動を支える制度をつくる会など市民団体のアドボカシーが大きな役割を担った。
※2 ロビー活動:議員や官僚など政策決定に関わる者に対し、自分たちが考える問題の重要性や現状、解決手法などについて、情報提供や意見交換などを通して、解決に協力してもらうよう働きかけていくこと。

◎実践へのアドバイス
陳情ではなく自分の信念を真摯に伝え、相手を共感させることが大切

―政策提言やロビー活動など、アドボカシー活動を実際に行う場合、どんな点に配慮すればうまくいくでしょうか?

堂本:アドボカシー活動は、私も毎日やっていますが、政治家に「こういう風に変えてください」という単なる陳情ではいけないと思います。つまり、市民である自分たちが主役であるという意識をもつこと。自分が信念として持っているものを、相手に理解させ、共感させる。それがアドボカシーの真髄です。
 たとえばNPO法を成立させたときの話をすると、あのときはとても多くの議員さんが市民活動を活発化させたいという理念に共感し、大小さまざまな団体が一緒になって動いていた。だからこそ、成立しました。政治家だって生身の人間。心に響けば、動くわけです。
 アドボカシーは、いわば行政と民間のコラボレーション。今は、公がやるべきところを民間が引き受ける部分もでてきているわけですから、市民にはもっと積極的に参画して欲しいですね。

―アドボカシーの最初の足がかりがわからないという声も多くきかれます。

堂本:どの行政のどんな窓口をたずねればよいのかは、複雑ですからわかりにくいと思います。環境省なのか、農水省なのか、地元の自治体の環境課なのか...。優れた市民運動家は、そのあたりの判断が非常に卓越していますが、普通は判断できないと思います。こうした窓口案内は、もっと行政サイドがしっかり行っていくべきだと思います。
 それから、ロビー活動などは、それを行うタイミングが非常に重要です。しかし、このあたりまで考えて行動できる市民活動家は、まだまだ少ないですね。もっと育っていってほしいです。日本の場合は、議員もアドボカシーを受けることに慣れていない方が多いと思います。議員も市民活動を知っていないと、それとどう連動していけばいいのかわからない。アドボカシーはある種の相乗作用ですから、両方が成熟することが望ましいと思います。

―アドボカシーが進んだ段階のお話をうかがいたいのですが、行政と一緒になって政策などをまとめる場合、多様な立場からさまざまな意見が出てきます。合意形成を図るためのコツのようなものがあれば教えてください。

堂本:日本人は欧米人と比べると、議論が下手です。でも、これでもかこれでもかというくらいに話し合いを重ねると、「絶対に白!」と言っていた人も不思議とちょっとずつ変わってくるんですね。議論を重ね、なにが大事なのかを突き詰めて話していくと、自分の未熟な部分や矛盾に気付いたり、実は反対意見の方と同じ気持ちがあったり。相手の言いたいことの本質も見えてきます。ですからまずは話し合いの場を作ることが大事です。
 欧米人は会議の場ではけんか腰で話していても、終わったら仲良くワインを飲んだりしています。でも日本人は、議論の後も感情をひきずっていることが多い。それではうまくいきませんね。議論でいったん決まったら従う、という姿勢を身につけてほしいですね。
 市民活動をする方のなかには、個性や主張が強い方もいらっしゃいます。それはよいことでもありますが、議論をしたりコンセンサスを整えたりすることに必ずしも熟達していない場合もあります。そういう意味で、みんなが納得する価値観を打ち出すことができるリーダーの存在が非常に重要になってくると思います。



◎未来に向けて
社会を動かすエンジンに!自分たちの代表を議会へ送り出そう


―これから日本の環境政策がよい方向に進んでいくために、市民活動は何をめざせばいいでしょうか?
堂本:市民活動をやっている人たちには、自分たちの代表を議会へ送り出すという気持ちを持ってほしいですね。いくらいい内容の提言を、いいタイミングで言っても、アドボカシーをする相手が水と油のような関係の人では、こちらの意図は届きません。
 議会に自分たちの代表が1人入っているだけで、相当変わりますよ。たとえば、国会にアイヌ出身の方が入られたことでアイヌ文化振興法が成立したり、不当な法律が廃止されたりしました。国会や県議会、市議会などに自分たちの意見を代表する人が1人でもいれば、大きく動いていくものです。そういう意味で、環境の分野に限らずさまざまな市民活動の経験者が議員になることが重要だと思います。

 市民活動が本当に力をもってきたら、選挙や議会が変わります。今はまだ市民がマイナーな存在なんですよ。すぐにできることでいうと、選挙のときに候補者に対して「環境についてどう考えていますか?」と質問を投げかけてみるのもよいでしょう。市民がアドボカシーを上手にできるようになれば、日本の政治は変わります。

―やはり自分たちが政治に参加していく、という姿勢が一番大事なんですね。最後にこれからアドボカシーをやっていこうというみなさんにメッセージをお願いします。

堂本:今は、温暖化も進んでいますし、生物多様性の劣化も進行し、地球全体が危ない曲がり角に来てしまっています。人間の英知や市民の良識、情熱を結集して、環境に軸足を置いた21世紀になるように方向転換させるべきだと思います。地球上の全ての市民がそのように考えないといけないですね。
 市民活動をする人は、誇りと自信をもって、仲間を増やし、アドボカシーを行って、日本の政治をよい方向へ動かしていって欲しいですね。今が、みなさんの力の出しどころです!

(出典 C's ブックレットシリーズNo.13 はじめよう市民のアドボカシー ~環境NPOの戦略的問題提起から解決まで~ こうやってます【事例編】)