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【セミナー報告】 2/4(土) 環境NPO政策提言実践セミナー Part2 「ここがポイント!ステークホルダーとのつきあいかた」

2012.02.20
1.実施概要 

(敬称略)

タイトル

環境NPOのための政策提言実践セミナー 「環境アドボカシー 成功への道!」

「狭山丘陵発 ここがポイント!ステークホルダーとのつきあいかた」

日時

201224日(土)100016:00

場所

さいたま緑の森博物館

主催

NPO法人シーズ・

市民活動を支える制度をつくる会

 

参加者

8名

講師

東京農工大学非常勤講師:永石文明

元埼玉県庁専門担当官:大沢夕志

早稲田大学講師:大堀聰

地元農家・おやじの会:加藤博司

さいたま緑の森博物館:長谷川勝

協力

さいたま緑の森博物館

当日

スタッフ

シーズ:北澤・大庭・木村・奈良・浜田

 

助成

三井物産環境基金

プログラム

1.はじめに 10:00-10:15 シーズ北澤

あいさつ、アドボカシーの説明、本日の進め方解説など

2.講義① 10:15-10:45

東京農工大学非常勤講師:永石文明

マルチステークホルダーで進めた狭山丘陵の保全活動①

3.ワールドカフェ 1045-12:00

グループA:行政(埼玉県) 

グループB:早稲田大学

グループC:地元農家 

異なるステークホルダーの視点・行動を知る

それぞれの立場から狭山丘陵保全活動への関わり方を紹介

 

4.全体討議12:00-12:30

ワールドカフェで見えてきた各ステークホルダーの関わり方

昼食 12:30-13:30

5.現地見学 13:30-14:30

 

早稲田大学、地元農家、さいたま緑の森博物館職員からの「さいたま緑の森博物館」でのポイント

休憩 14:30-14:50

6.講義② 14:50-15:30

東京農工大学非常勤講師:永石文明

マルチステークホルダーで進めた狭山丘陵の保全活動②

7.質疑応答 15:30-15:50

本日の講義、ステークホルダーへの質疑応答

6.おわりに 15:50-16:00

まとめ







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2.セミナー要旨

(1)はじめに
 主催者であるシーズ北澤・奈良よりセミナー開催の挨拶、主旨説明を行った後、ステークホルダーについての説明、各ステークホルダーの基本的な紹介、本日のワールドカフェの進め方について解説を行った。


(2)講義①:東京農工大学非常勤講師 永石文明(ながいしふみあき)
 「マルチステークホルダーで進めた狭山丘陵の保全活動①」
 狭山丘陵に関わってきたステークホルダー(埼玉県、早稲田大学、地元農家、NPO)についての説明、狭山丘陵の立地環境及び地元の環境保全活動のへつながるきっかけについて説明がなされた。

【発表のポイント】
  • 緑の森博物館のある狭山丘陵は、埼玉県で希少な場となっている湿地環境と豊かな雑木林が広がっており、以前より地元市民による観察会や遊びの場にも利用されていた。
  • 1970年代にこの地に早稲田大学進出計画(新校舎建設)が持ち上がる。その際地元で活動していた自然保護団体などが湿地及び雑木林の生物への影響を懸念し、開発計画への反対運動を起こす。
  • 1980年代に入り、地元で野生生物や文化財を観察していた10団体が「狭山丘陵の自然と文化を考える連絡会議(以後、連絡会議)」と「市民の森にする会」を立ち上げ、早稲田大学や埼玉県などとの協議の場を設け、その後の早稲田大学開発に環境保全の指針を設けるよう要望し、開発計画の縮小や変更を実現させた。
  • また、狭山丘陵全体については、丘陵全体を博物館として保全活用しようとする「雑木林博物館構想」をまとめて県との交渉を進めた。
  • こうした「連絡会議」及び「市民の森にする会」の活動から、「さいたま緑の森博物館」、「トトロの森ふるさと基金」など様々な活動へと派生していった。「さいたま緑の森博物館」の維持管理においては、いきている里山そのものをフィールドミュージアムとして残すという構想だったため、地元農家を含む市民もその維持管理に関わることとなった。


(3)ワールドカフェ「異なるステークホルダーの視点・行動を知る」
 狭山丘陵の保全活動の機運を高めるきっかけとなった早稲田大学、埼玉県、地元農家の各ステークホルダーからそれぞれの立場や当時の想い・行動についての話を聞いた。ワールドカフェ形式で各ステークホルダー毎の3つのブースを出し、参加者はそれぞれローテーションしながら登壇者とともにディスカッションを行った。

《埼玉県(元埼玉県庁専門担当官:大沢夕志)》
  • 狭山丘陵とは80年代の林業系部署としての関わりと95年以降の緑の森博物館の運営で関わっていた。
  • 80年代当初、森林法においても自然公園法においても狭山丘陵は保護されているとは言えず、開発圧力に対して環境行政は対抗する術を持っていなかった。
  • 開発ブームにともない、市民グループによる反対運動が展開されるようになった。保全か開発かで庁内調整に行き詰まっていたところにこの運動が現れたことによって、行政が保全に向かって動くきっかけとなった。当時の担当者は生態系の専門知識を持ち保全にも理解があった。その担当者が庁内調整を進める際の後ろ盾として、市民のこうした動きが役に立ったと思われる。
  • 連絡会議を通して、行政と市民の情報共有が進み、お互いに助言を与えることなどを通じて、前向きな市民との信頼関係を築くことができた。
  • 市民グループが、博物館構想という具体的な提案を行政に対してしてきたことで、丘陵地全体の保全についてのゴールをイメージ化し、共有することができた。この提案は、その後のさいたま緑の森博物館へとつながった。
  • 現在、緑の森博物館は、地元のグループも参加しながら運営され、今でも市民の関わりがある。この関わりがあることによって、丘陵の自然的価値や必要性が行政や開発者にも伝わることで、緩やかに開発を阻止できている。
  • 緑の森博物館は、民有地を借用する形で運営され、具体的な規制はかけておらず、地権者の相続発生時に県が買い上げて県有地にするという構想もあるが県も財政難であり、今後の博物館の維持が課題となっている。

《早稲田大学(早稲田大学講師:大堀聰)》
  • 1970年代、早稲田大学のキャンパス進出計画が出されるが、開発に反対する市民グループによる運動が活発になり、連絡会議が設立される。
  • 新キャンパス開講予定を1987年に控え、大学は連絡会議と協議をはじめた。
  • 1987年、大学は連絡会議と確認書を作成。学内に自然環境調査室を設置して、自然環境に配慮した開発を行う事を合意。自然環境調査室が大学側の窓口となって、大学と市民との情報交換が進み、信頼関係が構築されていった。
  • 2000年、県、市、専門家などからなる、より客観性の高い審査機関として評価委員会が設置された。
  • 自然環境調査室と評価委員会という大学の機関、連絡会議、県が、話し合いの場を持つことによって、確認書などに基づいて開発状況が監視される状況が作り出され、開発と保全とのバランスを取る仕組みが作り出された。
  • 自然環境調査室は、市民の意見を大学内に取り入れる役割を果たした。連絡会議や市民が活発に活動することにより、学内で自然を保全することの社会的な意義についての理解が進む一助となった。
  • 今後の課題は、保護を進める体制を継続していくこと。保全に関わった市民が少なくなって市民の関心が薄れていくことなどにより、保全を進めてきた力が弱まる事が懸念されている。

《地元農家(地元農家・おやじの会:加藤博司)》
  • 地元で専業農家をしており、狭山丘陵の環境保全に関わり始めたのは「さいたま緑の森博物館」が建設される2年前(1993年)。県より地元小学校のPTAに博物館施設の管理などの依頼があったもののPTA側が断ってしまう。それがきっかけで、隣町である狭山小学校のおやじの会が地元の宮寺小学校のおやじの会の設立も促し、合同で「稲仲の会」を結成し施設への関わりや管理に携わることとなった。
  • 狭山丘陵は水田がもともと少ないうえに減少しているが、風景や歴史を残したいという志で地元農家の方は道具を持ち出し、おやじの会30名程(農家は2名のみ)が機械の入れることが出来ない地盤のゆるい土地を手作業で開墾していった。
  • まず稲籾を撒いたところ無事に育ったが、この土地は廃田となっていたため埼玉県よりクレームがきた。しかしこの場の水田のある環境を守るために政府の目安箱に環境保全のためなどの希望の文書を投函。するとクレームはやみ、暗黙の了解で稲作ができるようになった。また、当時の食育ブームも追い風となり、それ以降のクレームは一切ない。
  • 1995年に博物館が開園。その際に施設を管理することとなった入間市職員の熱心な活動のために、おやじの会は活動の場を徐々に失っていく。しかし、NPO(永石氏など)からの丁寧な呼びかけによる施設職員との交流、早稲田大学との交流などもあり、現在でも人数は減少したものの活動は継続している。
  • 今後の目標は、30代~40代の若者を巻き込むこと、若者に農作業・里山管理での技術を伝えること、団塊の世代を巻き込むことなど、地元住民による多くの参加を期待したい(新たなステークホルダーとの関わり①)。
  • 緑の森博物館で出る落葉を地域の農家・田んぼに分配するなど経済的な効果及び減農薬につながる事も見出したい。またそうした落葉を利用して博物館での無農薬での農業塾を実現したい。(経済活動への一歩&新たなステークホルダーとの関わり②)。
  • 農家や山林をお持ちの方は相続税、固定資産税が苦しい。そこに甘えているだけではこの環境は守れない。しかし農地を「農業用資産」とするなどの緩やかな緩和も模索していく声は多々あるので、そうした運動・活動には注視していきたい(新たなステークホルダーとの関わり③)。


(4)全体討議「ワールドカフェで見えてきた各ステークホルダーの関わり方」
 各ステークホルダーのブースで発表された当時の想いや行動を整理し、NPOが他のステークホルダーを動かそうとする時の工夫や、マルチステークホルダーで進める際の関係構築の方法について、登壇者3名およびコーディネーターにより討議を行った。

【討論のポイント】
  • まずファシリテーターより、ワールドカフェでの各ステークホルダーの話を元に、それぞれを繋いだNPOの役割や活動のポイントなどについて横断的に整理し、当時の市民団体「連絡会議」や「市民の森にする会」「稲仲の会」などの市民団体が丘陵に強い関心と保全の意識を持っていることにより、行政や早稲田大学もこの地域の自然を大切にしながら開発を進めることに同意することとなった経緯を紹介。
  • 農家のグループである「親父の会」「田舎の会」は当初、それぞれ農機を持ち寄って作業していた。その後、行政が予算を付けて関わるようになってから、行政が農機、職員を集めて、稲刈りなどの活動を始めたため、役割・出番が失われてしまったと感じ、活動の機会が失われてしまった。地元の人たちに継続的に活動してもらうためには、活躍の場を常に設けておくことが重要。
  • 早稲田大学は、保全を積極的に行いたいという立場ではない。今後も保全を継続していくためには、市民や大学等すべての主体が、自然からの恩恵(生態系サービス)を理解して、保全を進めていく事が必要となるとともに、市民が継続的に働きかけを続けることが重要。
  • 「緑の森博物館」については、土地所有者の開発への意向、行政の経費削減の意向などにより、放っておくと継続性が難しい状況にある。そのため、市民グループが積極的に維持管理作業や運営に関わり、継続した保全が図られているかを監視し続けることが重要。NPOの役割は、市民グループ、行政、土地所有者(早稲田大学など)の主要なメンバーと定期的に顔を合わせて、情報交換、信頼関係の構築をおこない、保全推進体制を保ちつづける事である。

 
(5)現地見学
 狭山丘陵の保全活動が実際に行われた現場を見聞するために、緑の森博物館の長谷川氏にインタープリターをお願いし、NPO、地元農家、行政がそれぞれ案内と説明をしながら丘陵を回った。

【見学のポイント】
  • 緑の森博物館は民有地を借り上げた丘陵地で、北側に開けた地形になっている。丘陵の東京都側は都市公園(都有地)となっている点で、多様な土地所有者が関係する埼玉県側とは運営形態が異なっている。
  • 茶の栽培が盛んな狭山丘陵であるが、対象地内の雑木林ではチャノキが野生化している。
  • 原則的には、古くからの雑木林の営みである下草刈りや萌芽更新、もしくは地元種を中心に自然の状態を維持して行くことが望ましいと考えている。管理計画は市民も参加して作られたものであるが、県の方針として植樹などを行っていることなど、その実行面でやや不十分な点がある。
  • 湧水のある谷戸田では地元の市民グループが古代の栽培方法で稲を栽培している。水田としての圃場としての整備は行っていないので、水はけなどに問題があるが、子どもたちの参加もあるので環境保全、地域資源、風景保全などを伝えていきたいと考えている。
  • 周辺にはまだ農業を行っているところもあり、丘陵とともに狭山の風景を構成している。


(6) 講義②:東京農工大学非常勤講師 永石文明(ながいしふみあき)
 「マルチステークホルダーで進めた狭山丘陵の保全活動②」
 ワールドカフェによる、それぞれの立場を理解した上で、ステークホルダー同士のかかわり合いについての大事なポイントについて解説がなされた。

【ステークホルダーに見る社会関係】
  • 緑の森博物館が実現したのは、ステークホルダー間での社会関係(ソーシャルキャピタル:信頼・ネットワーク・規範の3つの関係)をうまく築けたことが大きな理由。
  • 物事を進めるには、「ネットワーク」、特に各ステークホルダー同士での横の連携が重要。頭(トップorリーダー(組織))のつながりのみではなく、フットワーク軽く動き、現場を良く知るメンバー同士が顔を突き合わせ語らえることが大切。
  • 自発的な協力関係を生み出すには、ステークホルダー同士で互いに「信頼」しあえる環境をつくることが大切。そのためには、きちんと話し合いの場を持つことが大切。
  • 異なる立場で関わるステークホルダーがそれぞれが持つ希望に対して利益を受けられる、もしくは受けられたという状況を実感できるようにし、相互利益的な「規範」を築くことが大切。
  • ステークホルダー同士が強者・弱者をつくることなく、それぞれが絡み合いながら、物事を進める状況を作り出すためには、足しげく顔をみつつ対話したり、バランスを取る役割の人がいたり、その活動を振り返る時間を設ける事も重要となる。狭山丘陵保全では、環境NPOがその役割を果たしてきた。

(7)質疑応答
 全ての討議・発表・見学を終えて、丘陵保全活動におけるマルチステークホルダーでの活動の方法について、参加者一人ひとりから感想を含む質疑応答を行った。

【質疑抜粋】
Q:各ステークホルダー同士が上手くつきあうコツは?
A:密に顔を合わせるのが一番。代表だけでなく、スタッフもどんどん顔を合わせること。

Q:人材の掘り起こしはどのようにしたらよいか?意見の強い人がいるなどパワーバランスの調整はどうのようにしたらといのか?
A:世代を交代するなど、バランスを保つのは大切なので工夫してほしい。

Q:立場による視点の違いがそれぞれあることがよくわかった。また違う立場の人それぞれで顔を見ながら話し合うことの重要性を学んだ。
A:各ステークホルダーをつなぐ役割としてNPOやNGOの担う役割は大きい。常に当事者同士が顔を合わせ連携できるようにつなぎ、お互いの考え方を理解できるように促すことが重要である。

<その他感想など>30代、40代などの若い世代に期待したい。


(8)まとめ
 マルチステークホルダーで進める保全活動において、NPOが他の主体とどのようにかかわり合うことが必要かという点について、狭山丘陵の保全活動の各ステークホルダーの意見や討議の結果などを踏まえて、最後に主催者であるNPO法人シーズ・市民活動を支える制度をつくる会より、狭山丘陵の保全活動から学ぶ「ステークホルダーとの付き合い方」のポイントについてまとめを行った。

【狭山丘陵の事例から学ぶステークホルダーとの付き合い方 5つのポイント】
① ステークホルダーと信頼関係をつくる。特に情報共有はしっかりと。
 <話し合いの場を設ける、顔のわかる関係をつくる、など>

② ステークホルダーに役割を与えて活躍できる場をもうける
 <地元農家に保全活動に関わり続けてもらうためには、その知識と経験を活かせる機会を提供し続けることが大切。相手の利益になる関係をつくるということ。>

③ ステークホルダーが動きやすくなる環境をつくる
 <行政や大学といった組織の中で、保全への理解を持つ担当者が活動しやすくなるよう、市民からの意見提案や情報提供を通して担当者をバックアップすることが大切>

④ ステークホルダーとは最後まで継続して関わりハシゴを外さない
 <大学の開発計画はまだ継続中であり、現在は保全されていても開発が進む可能性はまだ残る。決着がつくまでは働きかけを継続し続けることが大切>

⑤ ステークホルダーに合ったタイミングを見極める
 <相自分たちの意見を汲んでくれる担当者が来た時を逃がさないためには、普段から課題についての理解を深め、組織内での意思統一などを図っておくことが大切>