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2003年02月28日 10:00

行政 : シーズ、公益法人改革で意見書

 シーズは、本日、財務省・政府税制調査会と行政改革推進事務局に対して、「公益法人制度改革に対する意見書」を提出した。現在、政府で進められている公益法人制度改革に関して、内容と進め方に問題があるとして、情報を公開して議論を進めるよう要望。条件が整わない限り、NPO法人をこの「非営利法人」に含めるべきではないとしている。

 

 シーズは、本日、財務省・政府税制調査会と行政改革推進事務局に対して、「公益法人制度改革に対する意見書」を提出した。現在、政府で進められている公益法人制度改革に関して、内容と進め方に問題があるとして、情報を公開して議論を進めるよう要望。条件が整わない限り、NPO法人をこの「非営利法人」に含めるべきではないとしている。  シーズが提出した意見書は、「公益法人制度改革に対する意見書」とその「理由」の2部から構成されている。

 意見書と理由は、それぞれ以下の通りである。

公益法人制度改革に対する意見書

2003年2月28日
シーズ=市民活動を支える制度をつくる会

 シーズ=市民活動を支える制度をつくる会では、1994年の設立以来、民間の自由で自発性に基づく市民活動やボランティア活動を促進するという目的から、NPO法や認定NPO法人制度の創設を推進してきた。

 この度、政府が、100年以上の歴史を持つ民法の公益法人制度を抜本的に改革し、民間が非営利活動を行うための新しい制度的基礎を作るという作業に取り組まれていることは、日本における民間非営利部門の健全な発展を促し、日本社会が民間主導の活力ある社会へと変化していくために、極めて重要なことであると評価している。
 この改革を成功させるためには、シーズとしては、以下のような取り組みや視点が不可欠であると考えている。

  • 非営利法人制度の改革は、基本的には、従来の公益法人制度にみられるような行政の介入や規制を極力排し、民間の非営利活動、公益もしくは社会貢献活動を活性化する観点から行われるべきである。
  • 公益活動を展開する団体、市民活動団体、同好会などの共益団体等の民間非営利活動は、その活動の趣旨・あり方によって、それぞれに適した制度がつくられるべきである。非営利法人制度の改革は、多様な民間非営利活動の価値観を認め、その多様性を維持・促進する形で行わなければならない。
  • とりわけ、NPO法は、市民活動団体が簡易に法人となり、自由に活動できる基盤を築いた制度として、市民社会の発展にとって大きな到達点となっている制度である。この理念や制度が後退するような改革はあってはならない。
  • さらに、非営利法人制度の抜本的改革という以上は、公益法人、NPO法人、中間法人だけに止まらず、社会福祉法人、学校法人といった関連する特別法を包括的に含んだ抜本的な改革でなければならない。
  • 制度の構築にあたっては、民間非営利活動の担い手である団体や、その支援者・受益者である広範な市民の意見が十分反映されるよう、公開と参加を基本的な手法とするべきである。また、立法にあたっては、より市民参加型の立法ができる議員立法の可能性が追求されるべきである。

 しかし、マスコミ等で側聞する現在の政府の議論の内容や進め方は、このような改革を成功させるためのきちんとした考え方をとっていない。現在、政府が進めている案(マスコミ等から判断できる範囲での案)には、以下の問題点がある。

  1. 内容に関する問題点
    • 中間法人、公益法人、NPO法人を一本化して、非営利法人という類型にするとされているが、それぞれの制度の趣旨も、非営利性の程度も違う。これを一本化して「非営利法人」とすることは、それぞれの制度趣旨を無視することになってしまう。
    • 非課税措置の対象となる「登録非営利法人(仮称)」となるためには、収益事業の比率や内部留保の額などといった行政の規制を受けなければならない。これは、民間非営利活動を阻害する規制としかいいようがない。
    • 中間法人を非営利法人に含めることで、原則課税とすることに関しては、そもそも中間法人を「非営利法人」にくくること自体がおかしいので、不当である。
    • 登録非営利法人となった場合、原則非課税ではあるが、対価を得る事業をすべて課税とするならば、実質的に会費や寄付金などに課税を広げることにつながる。これは、市民活動やボランティア活動の発展を大きく阻害する。
  2. 進め方に関する問題点
    • 議論の進め方が、悪い公益法人を規制し、排除することに主眼が置かれており、民間の非営利活動、とりわけ市民活動を発展させていくという視点がなおざりにされている。
    • 議論が、非公開で進められており、市民活動の担い手や支援者である市民が議論に参加できる場が保障されていない。
    • 市民活動の促進のためには、その制度づくりを通して、市民自身の責任感を育むことが必要であるのに、制度づくりにそのような視点はまったく取り入れられていない。
    • 政府の行政改革推進事務局と税制調査会とで、法人制度と税制度をバラバラに議論している。民間非営利活動の促進という視点からは、本来、法人制度と税制度は、一体化して議論し、全体構想のあり方を問うべきであるのに、悪しき行政の縦割りを民間活動の設計にそのまま持ち込んでいる。

 このような問題点から、シーズでは、現在進められている政府の改革案に対して反対する。

 その上で、今回の公益法人制度の改革を、日本における21世紀の新しい社会づくりの大きな一歩とするためにも、政府は以下の取り組みを至急すべきであると考える。

  1. 大綱を決定する前に、これまで政府内で検討されてきた案と検討の経過を速やかに公表すること。
  2. 改革にあたっては、公益法人・中間法人・NPO法人を一本化するという案を見直し、まず、基本設計から十分時間をかけてやり直すこと。
  3. 改革の議論を進めるにあたって、改革の目的を民間非営利活動の促進を基本にすえ、その点を明確にすること。
  4. 議論のやり直しにあたっては、議論の経過を公開し、タウンミーティング等市民が意見を交換できる場を設け、市民参加のプロセスと、民間非営利活動の実態を踏まえた議論を行うこと。
  5. 政府は議論の場を提供することにまず注力し、議員立法による制度改革も選択肢に加えること。

 シーズとしては、現在の政府案が、指摘したような問題点を解消し、求める取り組みをきちんと開始しないならば、少なくともNPO法人を、現在進められている改革に含めるべきではないと考える。

 法人制度というものが、団体が社会的活動をする際に乗る「船」だと喩えると、現状では、政府がつくっている非営利法人制度という「船」は、どのような「船」なのか、乗っても大丈夫な「船」なのかどうかが、まったく分からない。このような状況では、NPO法人側は、「船」を乗り換えることができるわけがない。
 まず、公開の議論を経て、NPO法人が安心して乗れる「船」をつくる作業を行うべきである。少なくとも、公益法人制度をきちんと改革し、安心して乗り換えることができる「船」の設計図をきちんと示すべきである。

 このような観点から、シーズは、現在進められている改革のあり方に異議申し立てを表明するものである。

※ なお、この意見の背景となる理由については、以下を参照してください。

以上

公益法人制度改革に対する意見書
理由

2003年2月28日
シーズ=市民活動を支える制度をつくる会

1.制度改革の内容に異議あり

(1)公益法人制度の改革に必要な視点

 今回の公益法人制度改革は、天下りや行政の補助金を濫用しているなどといった一部の公益法人の問題を解決し、小さな政府を実現するとともに、民間企業の活力を高めるということが元来の出発点であった。その趣旨には賛同するし、必要性があることは間違いない。
 しかし、一方で、NPO法の立法に象徴されるように、民間非営利活動の重要性は、今後ますます増していくことになるし、それを促進していくことが極めて重要な日本の社会構造改革の課題となってきている。

 今日、公益法人制度を抜本的に改革するというならば、このまったく方向性が違う2つの歴史的・社会的要請の双方を満たしつつ、制度の体系を上手くまとめ上げられるかどうかということが、制度改革の最大の試金石となるだろう。
 そして、この2つの歴史的・社会的要請を体系的制度にまとめ上げていく際にもっとも大切なことは、どちらの要請をベースに据えるのかということに他ならない。

 私たちは、NPO法などの関連法を含めて、民法を抜本的に改革するというのであれば、民間非営利活動の促進という要請こそが、改革のベースに据えられるべきだと主張する。
 なぜならば、この2つの一見方向性が違うように見られる要請は、結局は、21世紀の日本の社会経済構造を、市民の多様なニーズに対応できる、民間主導の活力のあるものにしていくという大目的の下にあると考えられるからである。

 この大目的を達成するためには、行政の効率化や民間への規制・介入を制限していくことはもちろん重要である。しかし、それだけで、民間活動が発展していけるというものではない。とりわけ、民間非営利部門は、長い間、政府の強大な規制の下にあり、発展の土台を十分築けないまま来ている。政府部門を縮小するだけでは、この部門の健全な発展は望めない。多様な市民ニーズを実現し、活力ある社会を構築するために、民間非営利部門が自律的に発展できる土台づくりこそが今最も求められていることなのである。

 そして、この土台をきちんと整備していくためには、以下のような視点が改革の基本に置かれるべきだと考える。

  • 非営利法人制度の改革は、基本的には、従来の公益法人制度にみられるような行政の介入や規制を極力排し、民間の非営利活動、公益もしくは社会貢献活動を活性化する観点から行われるべきである。
  • 公益活動を展開する団体、市民活動団体、同好会などの共益団体等の民間非営利活動は、その活動の趣旨・あり方によって、それぞれに適した制度がつくられるべきである。非営利法人制度の改革は、多様な民間非営利活動の価値観を認め、その多様性を維持・促進する形で行わなければならない。
  • とりわけ、NPO法は、市民活動団体が簡易に法人となり、自由に活動できる基盤を築いた制度として、市民社会の発展にとって大きな到達点となっている制度である。この理念や制度が後退するような改革はあってはならない。
  • 公益法人においても、行政補完型として指弾を受けている法人だけでなく、地道に公益のために活動してきた多くの民間主導型の法人がある。これらの法人が、よりいっそう活動しやすくなる方向も同時に検討されるべきである。
  • さらに、非営利法人制度の抜本的改革という以上は、公益法人、NPO法人、中間法人だけに止まらず、社会福祉法人、学校法人といった関連する特別法を包括的に含んだ抜本的な改革でなければならない。

 公益法人制度の改革は、これらの視点に基づいた全体設計をきちんと描いた上で、そこでも問題となる公益法人を規制する施策を、対象限定的に制度化していくべきである。さらに、多様な民間非営利活動の特徴や実態に沿った規律やガバナンスを、その多様性に併せて制度化していく必要がある。

(2)政府の基本構想自体が問題である

 NPO法人、公益法人、中間法人は、それぞれ作られた制度の趣旨が違う。民間非営利活動の多様性とそれに基づく制度の趣旨を尊重した改革を考えるならば、政府が考えている「NPO法人、公益法人、中間法人を一本化し非営利法人とする」というスタート時点がそもそも問題である。

 特に、中間法人制度は、事業継続中に利益を分配できないとはいえ、解散時には残余財産を分配できることから、利益や残余財産の分配を禁止すべき「非営利法人」の枠組みに入れることには、大きな疑問がある。

 その上、一本化した非営利法人制度を設計するにあたり、中間法人制度の規律を中心にして設計しようということに対しては、いっそうの懸念を示さざるをえない。共益活動を目的とする中間法人と、社会的活動を展開しようとするNPO法人とで、本当にガバナンス(組織形態)が同じものでいいのかどうか、きちんと現場の声や実態を踏まえて検討されるべきである。
 また、そのような中間法人制度にある基金制度を導入することは、立法に際し、基金制度を廃止し、簡易に法人設立できることを目指したNPO法の精神を踏みにじるものである。

 さらに、政府案は、現在の公益法人制度やNPO法人制度を、非営利法人と登録非営利法人(仮称)という2段階に分けるという構成になっている。そして、非営利法人を中間法人と同様原則課税とし、その上で、非課税措置を得るためには、登録非営利法人となる必要があるとされている。その登録非営利法人となるためには、収益事業や内部留保、管理費の比率等に関して、様々な規制を受けることになる。さらに、この「登録」は、行政庁等がその可否を決めること、更新制をとること、取り消し措置があることなど、事実上の認可制度といえるものである。これにより、NPO法人は、新しい制度に移行する場合、課税か規制かという選択を強いられることになる。

 もちろん、収益事業などのあり方は、必要に応じて、その規律を求める場合もあるだろう。しかし、市民活動やボランティア活動が発展していくためには、収益事業や内部留保、管理費の比率の妥当性などがいかにあるべきかということについては、ほとんど議論されてきていない。このような議論はまた、活動している団体の実態を十分に踏まえたものでなくてはならない。
 そのような議論も検討もなく一方的に規制がかけられるとするならば、明らかに、NPO法人にとって不当な規制強化に他ならない。

 現在、政府案の「非営利法人を原則課税にする」という点ばかりが注目され、批判の対象になっているが、基本的には、それ以前の問題である。
 基本構想自体に、市民活動やボランティア活動を始めとする民間非営利公益活動を発展させていくという理念や、NPOの実態を踏まえた議論が欠如している。そして、どう規制をかけるかという視点だけが強く打ち出された改革案となっている。

 とりわけ、NPO法は、市民による自由な社会貢献活動をいっそう促進していくために作られた法律である。悪しき一部の公益法人の規制を強化するという改革の趣旨と、NPO法の理念とはまったく違う地平にあり、並び立たない。このような趣旨・理念が違うものを、規制強化という一つの趣旨の下で強引にまとめるということは、NPO法の理念を棄損するものに他ならない。

 一部の公益法人の問題を奇貨として、いままで政府が規制しづらかったNPO法人まで規制の網の下に入れていくということが、基本構想の本当の狙いではないのかと、疑わざるを得ない。

 このままでは、「市民による自由な社会貢献活動を促進する」ために作られたNPO法が、「市民による自由な社会貢献活動を規制する」法律へと転化してしまいかねない。

(3)法人課税の考え方に問題がある

 同様に、法人課税のあり方にも問題がある。

 もともと、政府は、非営利法人に関しては非課税とし、営利法人と同等の事業を行うものについては課税するということを基本方針としてきた。その背景には、営利企業と競争・競合する場合には、イコールフッティングが必要だというのが理由であった。この理由は、十分納得できるものであるが、今回、非営利法人について、原則課税とするのは、営利法人と同種・同等の事業を行っている法人だけでなく、会費や寄付金などで運営され、メンバーのために活動するような共益的な法人さえも、「営利法人が行う商行為と実態としては変わらない活動ができる」という可能性だけに基づいて、原則課税するとしている。また、「会費」といっても、対価性がある場合があるから、「会費」にも課税するとしているが、課税は、名目ではなく、「実態」に基づいて行うということが基本であり、このような判断は、名目だけで課税の可否を決めるという矛盾を引き起こすことになる。

 また、実態把握の実務的な困難さから、非課税措置の難しさを主張する向きもあるようだが、行政が上手く事務ができないから課税するというのはあまりにも乱暴な議論である。

 登録非営利法人となった後も、「対価を得る事業すべて」に課税するとなれば、NPO法人の多くが新たな課税上の問題を抱えることになる。NPO法人の事業には、対価だけでは収支が成立しないものが多くある。そのため、NPO法人は、一つの事業において、会費、対価、寄附、助成金、補助金などを組み合わせてその事業に必要なコストをまかなっている。その事業が継続的なものである場合には、その事業を継続させていくための資金を常に繰り越す形で保持していく必要もある。それが課税対象となるということは、結果として、会費、寄附、助成金などへの課税範囲が拡大するということになる。(現在でも33事業に該当すれば、寄付金等は課税対象)

 これは、NPO法人が、廉価ながら社会的意義があることなどから提供しているサービスに対して、その展開を阻害する結果につながりかねない。

 さらに、NPO法人は、対価が取れない事業を、会費や寄付金、助成金などでまかなっているが、それではまかない切れないことが多く、利益が上がる事業を行い、それを対価が取れない事業のコストに充てることで、対価の取れない事業を維持発展させている。対価を取る事業の課税を拡大し、一方で、20%程度のみなし寄附金制度しかないような案では、このようなNPOが育ててきた事業展開が危殆に瀕する結果となる。

 もともと、非営利法人への課税は、原則非課税とした上で、企業とのイコールフッティングという趣旨から33事業に限定して行われている。単に対価を取る事業であるから企業と競合・競争関係にあり、イコールフッティングとするためには、そのすべての事業を課税対象とすべきであるという議論は短絡的で乱暴である。NPOの活動や実態、その意義を踏まえていないとしかいいようがない。
 企業とNPOがどのようにすれば、それぞれの活動の発展が阻害されない形で、同時に、同じ事業領域で活躍できるのか、という点に関しては、課税以外の視点も含めて広く検討されるべきである。イコールフッティングを即課税という狭い視点からだけ考えている現在の政府の案には反対である。

(4)シーズの見解

 これらの観点から、政府によって進められている公益法人制度改革の内容を検討したところ、今回の制度改革は、本質的な議論を回避したまま進められているものにすぎず、「改革」と呼べるものではないとの結論に達した。

 もちろん、NPO法や社会福祉法などを含めた非営利法人体系全体の見直しははかられるべきである。

 その際には、まず、公益法人制度を「民間の様々な非営利活動が展開しやすくなるための緩やかな一般法」として改革すると同時に、問題のある公益法人だけを規制できるようにするための対象限定的な規制策を策定。その後、民法の特別法としてできたNPO法人や社会福祉法人などの制度を、それぞれの制度趣旨にそって見直すべきである。

 また、課税については、残余財産の分配を禁じた非営利法人については、実質的に非課税となる措置が講じられるようにすべきであるとともに、一部、企業などの事業と競合するような事業においては、民間非営利活動の特徴を損なわないような内容でのイコールフッティングとしての課税措置や課税の特例のための要件(課税以外の方法によるイコールフッティング)設定を図るべきである。

 このように、理念を明確にした上で、多様な価値観に基づいた体系的な見直しがなされるべき改革にもかかわらず、規制策と弥縫策に終始している現状の案ではとうてい賛成できない。
 このような基本構想のゆがみは、そもそも、公益法人・中間法人・NPO法人を一本化するというスタートから始まっている。

 したがって、NPO法を推進してきたシーズの立場としては、まず、公益法人・中間法人・NPO法人を一本化することに始まる法人制度の構想自体に反対する。
 少なくとも、NPOの立場から、この新しく設けられる「非営利法人」の中にNPO法人を含めるべきではない。

2.制度改革の進め方に異議あり

(1)悪しき公益法人に対する規制強化が議論のベースに置かれている

 議論の進め方が公益法人の問題点ばかりに焦点が充てられていることも問題である。

 一部の公益法人に見られる過大な内部留保や天下り職員などへの高額の報酬、市場原理を無視した料金などの設定、税金の無駄遣いなどの問題は、基本的に、行政と公益法人との特別な「関係」に起因する問題である。競争のない独占的な事業や、独占的な補助金・委託事業、行政の特別の保護と規制などがその「温床」である。問題とすべきは、このような「関係」とその「温床」ではないのか。公益法人の制度を改革しても、ここが糺されなければ問題は解決しないと考える。

 一方、多くのNPO法人は、企業や社会福祉法人などとの厳しい競争関係に置かれていたり、行政の保護の下に置かれていない状況にある。このような、環境を無視した議論の進め方には大きな疑念がある。

 また、公益法人の売買やその「公益」という名称の濫用についても、基本的にその問題を生みだしているのは政府の規制である。したがって、これを準則主義による設立にして、名称も「非営利法人」とするというのは納得できる解決策である。しかし、NPO法では、この改革をすでに一部先取りしてきた。

 「公益」という名称をはずし、準則に近い「認証」という方法でその設立を簡易なものとしている。確かに、「認証」も濫用されるという指摘はある。しかし、それは「登録」制度でも同じである。行政が「登録」を厳しく規制すればいい、というのでは、再び元の公益法人制度への逆戻りである。まず、NPO法が実現した成果と、その欠点をきちんと議論することにより、新しい非営利法人のあり方も見えてくると考える。

 当然、新しい非営利法人の制度は、むしろNPO法をベースに議論されていく必要があると考える。

 その点からしても、現在の議論の進め方は大きな間違いを犯している。

(2)非公開で市民参加のプロセスが無視されている

 今回の「公益法人改革」は、その進め方も大きな問題である。

 確かに、政府は、昨年8月に「論点整理」の報告書を発表。パブリックコメントを求めた。しかし、そのパブリックコメントも一方的なものでしかない。民間から寄せられたパブリックコメントに対しての政府側からの回答はないままである。

 さらに、その後の議論は、行政改革推進事務局におかれた私的懇談会と、政府税制調査会の下に置かれた非営利法人課税ワーキンググループという2つの非公開の機関で、情報をオープンにしないまま、また市民参加のプロセスを経ないまま進められている。その会議の進め方も事務局主導で、決して委員間の意見が十分反映されているとは言い難い状況であると側聞している。しかも、パブリックコメントを募集してから、わずか半年程度で、情報を公開しないまま、内容を閣議決定しようという性急さである。

 公益法人制度やNPO法人制度という、日本の非営利公益セクターの未来を左右するような重要な制度を議論しているにもかかわらず、その肝心な担い手がその議論に十分参加する場を与えられず、また、その活動に参加し、支援し、活動の成果を受け取る市民一人ひとりもその意思を十分反映させる場が設けられないということは極めて遺憾としかいいようがない。

 さらに、政府税制調査会は、平成12年7月に発表した「わが国税制の現状と課題~21世紀に向けた国民の参加と選択~」という報告の「はじめに」で、「(税制全体の改革の)検討に当たっては、国民一人一人の参加と選択が従来にも増して重要になってきています。」「国民参加の下に、21世紀を展望した今後の税制改革論議が行われることを期待してやみません」と述べている。しかし、この非営利法人課税の議論は、税制調査会が自ら表明した所信に自ら背いているとしかいいようがない。

 政府は、議論を公開のものとし、十分時間をとり、市民参加の過程を踏まえて、議論を進めることを検討すべきである。

(3)民間側の自発性と責任感を損なう形で議論を進めている

 とりわけNPO法は、その活動に参加し、その活動を支援する市民一人ひとりの法律でもある。
 決して、政府の持ち物ではない、「市民の道具」である。

 NPO活動が日本社会で、期待されている成果を上げ、社会の大きな柱となっていくためには、市民一人ひとりが、その活動に参加しやすいかどうか、支援しやすいかどうかが問われてくる。そこでは、市民一人ひとりの責任感や自発性が不可欠な要素を占めることになる。
 その意味で、使い手や担い手が、制度のあり方の議論に参加し、自らの制度であるという責任感と自覚を育んでいくことが、この制度改革を実りあるものにするためには不可欠である。

 NPO法は、まさに、市民が責任感をもって議論し、国会議員との協力の下で作り上げてきた制度である。このプロセス自体が、NPO法を日本における市民社会づくりの重要な道具となす働きをしている。
 公益法人制度改革という名称で、政府から与えられた法律を甘受するという経緯では、せっかく芽が出始めた、民間主導の日本の社会づくりは再び、行政のくびきのもとにおかれてしまいかねない。

 真に、日本における民間非営利活動の発展を考えるならば、政府は民間における議論を活発にすることから、制度の改革を進めていくべきである。

 政府が一方的に民間活動のあり方の法律をつくってそれを民間側に強要するということは、日本おける民間活動を振興する意志がないとしか判断できない。

(4)政府の縦割りの枠組みの中で議論が進められていることの問題点

 政府の議論が、法人制度が行政改革事務局、税制が税制調査会で分けて行われていることも問題である。もちろん、それぞれの担当する領域があることは了解している。しかし、法人制度のあり方とその法人の活動を促進したり、抑制したりする税制のあり方とは、利用する団体側からすれば、不可分のものである。これが議論されない限り、その法人制度が利用しやすいものなのか、どういう活動ができるのかが判断できない。政府の都合で、これを別々に議論するというのでは、民間活動を発展させるというよりは、相変わらず政府の枠組みの中で民間活動を統制しようとしているとしか考えられない。行政改革事務局、税制調査会、その他NPO法人や関連省庁、そして、民間からなる議論の場を設けて議論を進めるべきである。

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