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2004年07月16日 10:00

行政 : 公益法人改革の政府原案公表

 政府の公益法人制度改革に関する有識者会議(座長・福原義春資生堂名誉会長)の第16回会合が、7月15日、開催された。この会合で、創設される非営利法人制度の概要と論点が示された資料が提示され、細部の検討がはじまった。新制度には、中間法人が統合される方向だ。また、非営利法人は、残余財産の分配可能な法人として規定されている。

 

 「公益法人制度改革に関する有識者会議(以下、「有識者会議」)」第16回会合では、事務局から、創設される非営利法人(仮称)制度の全容を網羅した「全体的討議用メモ」と、検討の余地のある事項を列挙した「個別事項討議用メモ」の2種類のメモが示され、これまでの議論の総括的な議論が開始された。

 メモによると、新制度の概略は、3月末に「議論の中間整理」で発表されたものと大枠は同じで、「非営利法人」は、登記(準則)で簡便に設立できることになる一方で、その中から「公益性」のある法人には、一定の優遇措置が与えられるという「2階建て」の構想。(「非営利法人」が1階部分、「公益性のある非営利法人」が2階部分)

 「1階」には、これまで「関係を整理する」と扱いが決まっていなかった「中間法人」が「統合する方向で検討する」とされている。

 NPO法人も「関係を整理する」対象とされていたが、このたびのメモに関する限りでは言及はされていない。中間法人は、現行、会費や寄附金にも課税される「原則課税」(寄附金課税)の扱いで、この制度が統合されることで、新しい「非営利法人」は「原則課税(寄附金課税)」法人となる可能性が高い。公益法人やNPO法人からは「課税強化」への警戒感が強まることが予想される。

 メモでは、新非営利法人を「社団」と「財団」とに分けて規定している。

 社団形態の非営利法人は2人以上から設立できるようになり、法人の事業の制限はない。

 社員の権利義務は、1)出資義務を負わず、2)利益配当請求権を有せず、3)残余財産分配請求権を有せず、4)法人財産に対する持分を有しないことを基本的要素とし、「営利法人制度と区別を明確化する」とされている。しかし、有識者会議の下に設置されている非営利法人ワーキング・グループで定義されていた「剰余金を社員に分配することを目的としない社団」という文言は見当たらない。

 また、注目されていた清算時の残余財産は、「定款又は社員総会の決議により」に自由に決めることができるとされており、社員で分配することも可能になる。

 拠出型非営利法人や公益性を要件としない財団制度は導入される方向。

 加えて、このたびのメモでは、中間整理では先送りされていた「公益性のある法人(以下、「2階法人」)」の判断基準や、判断主体についてかなり具体的な項目が提示されている。判断主体については、評判の悪かった「課税庁」の線が消えたが、判断基準については、厳しい内容になっており、議論を呼びそうだ。

 有識者会議で議論されている公益性の判断基準は以下のようなもの。

  • 法人の本来目的に共益的事業は不適当。
  • 公益的事業が全体の過半を占めること。
  • 収益的事業による利益は公益的事業に使う。
  • 人件費等管理費の支出総額に占める割合が一定水準以下であること。
  • 適正な経理を行っていること、また、一定規模以上の法人には、外部監査の義務付け。
  • 役員構成に親族制限規定の導入。
  • 過大な役員報酬に一定の制限。
  • 内部留保に一定の制限。
  • 財産的基盤の確保を求められる可能性。
  • 社会通念上、営利企業と競合する事業は不適当。排除規定の導入の可能性。

 ただ、2階法人になるにあたって、批判が集中していた活動実績は、問われない方向だ。しかし、公益性の判断にあたっては、事業計画や収支予算が以上の要件に合致しているか審査するとしており、さらに、2階法人になっても、一定期間ごとに公益性を維持しているか審査される「更新制度」が導入される可能性も議論されている。

 これらを誰が判断・審査するのか注目されてきたが、このたびのメモでは、(1)比較的独立性が高く、最終的な決定権を持つ行政委員会(国会行政組織法3条に基づくいわゆる「3条機関」)、(2)所管大臣が最終的な決定権をもつ審議機関(同8条に基づく「8条機関」)、(3)(内閣府や総務省といった)単一の行政機関(大臣)、が列挙され決まっていない。ただし、地方においては判断主体は都道府県とするという方向が出されている。

 さらに問題なのは、このような基準からはずれてしまう場合は、「判断主体等が特に合理的と認められると判断する場合に限り、基準を超えることも許容する」が、「基準を超える合理的理由について情報開示を求める」とされていること。判断主体に広範な裁量が残される内容となっている。これらが恣意的に運用されない保障はない。

 また、2階法人になることでどんなメリットが与えられるのかも明らかになっていなかったが、以下のような内容が議論されている。

  • 法人の名称とは別に何らかの呼称を認め、他と区別。
  • 公益性の判断主体による情報提供
  • 判断主体による相談・助言
  • ガバナンスがしっかりした団体であることから得られる社会的信用
  • 税制優遇措置

 ただし、税の優遇措置については、有識者会議の管轄外であるとして、突っ込んだ議論をあえて避けている。しかし、「税制上の措置を講ずるに当たって必要となる要件と公益性に係る判断要件とが整合的でない場合には、税制上の観点から独自の要件が必要となる可能性」と言及されており、2階法人になれても、税制上の優遇措置を受けるにはさらなるフィルターがかけられる可能性が懸念される。

 7月15日の会合では、1階部分と、2階部分の公益性の判断基準まで議論された。有識者会議は7月中にあと2回程度開催され、このメモについて細部をつめる作業をする予定。8月は夏休みで9月から再開、10月末あたりをめどに報告書としてまとめられる見込みだ。

 税制部分について議論する財務省内の政府税制調査会・非営利法人課税ワーキンググループの議論は、秋(9月ごろ)から開始される見込み。

 政府としては、年内に具体的な案をまとめるとしている。

 以下、2種類の資料(資料1、資料2)の全文を掲載する。

資料1
全体的討議用メモ

I 非営利法人(仮称)制度

○人々の自由活発な活動を促進するため、公益性の有無にかかわらず、準則主義(登記)により法人格を取得できる制度とする。

(社団)

○法人の事業については、格別の制限をしない。

※公益活動に限らず、幅広い活動ができるものとする。

○営利法人制度と区別を明確化する。

※社員の権利・義務の内容として、社員は、(1)出資義務を負わず、(2)利益配当請求権を有せず、(3)残余財産分配請求権を有せず、(4)法人財産に対する持分を有しないことを基本的要素とする。

○設立時に一定の財産を保有することは要しない。

※設立時の社員の最低人数は、2人以上とする。

○拠出金(仮称)制度の選択を可能とする。

※法人は、定款の定めにより、社員又は第三者に対し、拠出金(仮称)の拠出を求め、法人の解散時には、他の債務が弁済された後、拠出額の限度でその返還を受けることができるものとする。

○ガバナンス(法人の管理運営のあり方)に関する規律を次のとおり法定する。

  • 最高意思決定機関として、社員総会を置く。
  • 業務執行機関として、理事を置く。

    ※理事の選任手続、任期、法人及び第三者に対する責任等を明確化する。

    ※定款の定めにより、理事会を設置することも可能とする。

  • 業務執行を監査する機関として、定款等の定めに基づき、監事を置くことができるものとする。

    ※業務監査の実効性を確保するための権限を付与する。

  • 少数派社員の保護の観点から、各種少数社員権及び代表訴訟制度を置く。

    ※例えば、社員総会招集権、役員の解任の請求、差止請求権、帳簿閲覧権等を規定する。

  • 外部者による監査等、法人の規模に応じた特例の要否について検討する。

○情報開示は、原則として、定款、社員名簿、計算書類等を、社員、債権者に対して開示することとする。

○定款の変更、解散、合併について、所要の規定を置く。

※準則主義に伴う弊害に対処する観点から、休眠法人に関する整理、裁判所による法人解散命令制度や解散判決制度を設ける。

○清算時の残余財産の帰属は、定款又は社員総会の決議により定める。

※定款又は社員総会の決議により、社員に残余財産を帰属させてはならないと決めるだけでなく、法律上、残余財産を社員に帰属させてはならないとする法人類型を別途設けるべきであるという指摘については、当該類型を設ける法制度的な理由の有無及び当会規律の実効性の有無等を踏まえ、なお検討する。

○社団形態の法人には、中間法人法上の中間法人を統合する方向で検討する。

(財団)

○公益性を要件としない財団形態の法人制度(公益性の有無に関わらず、一定の目的の下に提供された財産に法人格を付与する制度)を創設する。

※法人の目的及び事業について、①公序良俗に反しない限り、特段の制限をしない案、②公序良俗に反する場合のほか、一定の制限を設ける案を検討。なお、②については、制限の遵守に関する合理的なチェック方法の有無も併せて検討する。

○ガバナンスの強化及び設立者意思の補完という観点から、社団に係る規律に加え、次の規律を法定する。

  • 設立時に一定規模以上の基本財産の保有を義務付ける。

    ※1 一定の規模については、現行の会社制度における最低資本金の額等を参考としつつ、検討する。

    ※2 基本財産の処分の制限について検討する。

  • 設立者意思を補完して法人の基本的な意思決定を行うとともに、執行機関の選解任を行う機関として、評議員会を置く。
  • 業務執行の意思決定機関及び執行機関として、理事会及び理事を置く。
  • 理事及び理事会の業務執行を監査する機関として、監事を置く。
  • 寄附行為の変更ができるものとする。

    ※変更の要件を法定するか、設立者の意思にゆだねるかについて検討する。

II 考え方Aに基づく公益性を取扱う仕組みのあり方

1.基本的視点

○今後の社会において非営利法人による公益的活動が果たす役割とその活動の促進は一層重要となる。新たな非営利法人制度の下で、公益性を取り扱う仕組みを設けることは、市場経済では提供が困難な財・サービスが安定的に提供され、このような仕組みが寄附やボランティアといった私人の善意の受け皿となることを通じて、私人の公益的活動が促進されるという点で有意義。

○非営利法人が公益性を有するか否かの判断は、主務官庁制の弊害を避ける観点から、できる限り裁量の少ない客観的で明確な判断要件を設け、現在の主務官庁から中立的な判断を行い得る組織が行う。

○公益性を有する非営利法人(以下「法人」という。)については、一般の非営利法人に求められるガバナンス・規律や情報開示に加え、公益性を有するに相応しいしっかりとしたガバナンス・規律を備えるものとして、情報開示については、プライバシーの保護等合理的理由のあるものを除き、組織・運営等について国民一般に向けた情報開示を徹底する。

○法人の適正運営の確保については、ガバナンスの強化を通じた自律的な監査・監督機能の充実と情報開示の徹底を通じた社会監視の充実によることを基本とし、不適切な事態が生じる場合には、判断主体による事後チェックを行うことにより適切に対処することとする。

2.公益性の判断要件のあり方

○判断要件については、法人の目的、事業及び規律の面から、現行の指導監督基準の考え方を踏まえ、できるだけ客観的で明確なものとする。

○当初の公益性の判断に当たっては、活動実績を有しない場合には、事業計画、収支予算が要件に適合していることが必要である。また、当初の公益性判断の後は、活動実績により公益性が維持・確保されているかどうかを確認することが必要。

○公益性の判断ができるだけ早期に行われるよう、申請者の視点に留意し、申請手続の簡素化等を図る。

○主な判断要件として以下が考えられる。

(1)目的

・目的については、法人は積極的に不特定多数の利益の実現を図るべきとの考え方の下、不特定多数人の利益に係る受益の及ぶ範囲について、どのように考えるか。その際、法人の本来的目的は公益であることを踏まえつつ、共益の取扱いについてどのように考えるか。〔個別事項討議用メモP.1~2(シーズ注「法人の目的について」)参照〕

(2)事業

・事業については、公益的事業が全体の過半を占め、収益的事業に伴う利益については、原則として公益的事業のために使用されることが適当ではないか。具体的な判断要件のあり方については、法人運営の実態を踏まえつつ、客観的指標の設定を含めて、どのように考えるか。また、営利競合等の観点から、公益的事業に係る合理的制限の可否についてどのように考えるか。〔個別的討議用メモP.3~4(シーズ注「法人の事業について」)参照〕

・公益的事業を具体的に列挙することの適否について、目的や規律に係る判断要件のあり方との関連にも留意しつつ、どのように考えるか。〔個別事項討議用メモP.3~4(シーズ注「法人の事業について」)参照〕

(3)規律

 主な規律(後述のガバナンスに該当するものを除く)の要素として、以下が挙げられる。規模の大小に応じて特例を設けることの要否についても検討する。

 また、これらの規律の要素については、客観的な指標の設定の可否について、実態等を踏まえて検討をするが、客観的な指標の設定が困難な場合等にあっても、その実態について国民一般に分かりやすい情報開示を行うことを基本とする。

ア 役員構成について、同一親族が役員に占める割合を制限する等所要の規定を置く。

イ 役員報酬等について、公益的な事業の実施に支障を来たすような、不当な役員報酬等は適当ではない。

※役員報酬等の合理的な規律の可否を検討する。

ウ 残余財産の帰属について、構成員に帰属させることは不可とする。

※法人が公益性を失った場合については、引き続き構成員への残余財産の帰属を不可とすることでよいか。または、本来社会が受け取るべき分は社会に帰属させることも考えられるか。

エ 内部留保のあり方について、将来の公益的な事業の実施に必要な範囲を超えて過大に資金等を留保していることは不適当ではないか。〔個別事項討議用メモP.5(シーズ注「内部留保の取扱いについて」)参照〕

オ 管理費の水準について、管理費の総支出額に占める割合が過大で、公益的な事業が適切に行われないこととなるのは適当ではない。

カ 財産的基盤の確保について、公益的な活動を行っていくための財産的基盤は必要である。

キ 株式保有等について、営利企業の支配を通じた制度の濫用が行われることは適当ではない。

※オ~キの考え方を担保するための規律について、その要否を含め検討する。

3.適正運営の確保のあり方

(ガバナンスのあり方)

○主なガバナンスに係る規律については、以下が挙げられる。規模の大小に応じて特例を設けることの要否についても検討する。

※判断要件として求められる規律についても、ガバナンスの強化に関連する事項が含まれている点に留意。

ア 意思決定機関、執行機関及び監事のあり方について、原則として、理事会・監事を必置の機関とすることでよいか。

※小規模な法人については、負担が大きいことから、理事会・監事を任意の機関とすることも選択できる方向でよいか。

イ 役員の責任について、法人や第三者に対する責任の明確化を図る。

※代表訴訟類似の制度等について、寄付者や国民一般にも役員の責任を追及することができることとする仕組みの導入の適否については、フィデュシャリー(受託者)の責任の考え方により役員の責任を基礎付ける必要性と併せ、さらに検討する。

ウ外部監査について、一定規模以上の法人には外部監査を義務付けることでよいか。

(情報開示のあり方)

○現行の指導監督基準上、原則として一般の閲覧に供することとされている事業等の業務及び財務等に関する資料を開示するほか、さらに、例えば公益的事業の割合など、公益性の判断要件となり得る項目については、国民一般に分かりやすく情報開示することを基本とする。その他、社会監視の考え方から情報開示すべき項目は考えられないか。その際、プライバシー保護の観点から、社員の住所については一定の配慮をすることが必要ではないか。

 開示の方法については、事務所での閲覧・謄写に供するほか、社会監視の考え方を踏まえ、インターネットによる情報開示を極力活用することが適当である。

 今後、インターネットによる情報開示の義務付けを含め、具体的な方策について検討する。

○判断主体において、法人による開示情報を一元的に管理し、インターネットを通じて、出来る限り法人間の比較が可能な形で国民一般に開示する。

(事後チェック(監督)のあり方)

○監督の具体的措置内容としては、事業報告書等の定期的な提出、報告聴取、立入検査、勧告・命令、公益性判断の取消し等が考えられる。また、これらを行使する際の要件の明確化を図る。

○国民一般が判断主体等に対して、法人の不適正な運営の事実を通報する仕組みにてついて、運用上の対応を含め、どう考えるか。

○公益性の有無について、一定期間ごとに法人の活動実績を踏まえて見直す仕組みが必要と考えられる。その仕組みとして、公益性判断が恒久的なものとならないよう、更新制度を導入することについて、どう考えるか。

4.判断主体のあり方

○現在の主務官庁から中立的に判断を行い得る組織であること、専門性を有し的確・効率的で実効性の高い事務処理を行い得る組織であること、求められる機能に対して適切な責任を果たし得る組織であること等の要請を満たすことが必要と考えられる。

○判断主体の検討に当たっては、判断要件の客観性・明確性の程度を踏まえ、判断の公正性・中立性をどのように確保するか(合議制か独任制か)、公益性の判断主体には、公益性判断、不服申立て、事後チェック(監督)といった機能のうちどのような機能を担わせるか(事後チェック(監督)を担う場合は、地方組織を含めた相当規模の組織体制が必要となり得る。)、現行公益法人の移行措置をどのような仕組みで行うか、等により、適切な組織体制のあり方は変わり得ると考えられる。その際、行政組織の膨張抑制の観点に留意する。

○具体的な判断主体としては、(1)行政委員会(公益性に係る判断、事後チェック等を合議制により包括的に行う)、(2)審議機関(公益性に係る判断の全部又は一部(慎重な判断を要する場合等)を合議制により行い、事後チェック等を大臣と適切に分担して行う)、(3)特定の行政機関(大臣)(その下で公益性に係る判断等を行い、不服申立ての処理については審議機関において行う)、といったものがあり得る。

 判断主体の独立性に着目すれば行政委員会が望ましいという意見や、審議機関であれば独立の事務局を置くことが望ましいという意見、行政組織の現実を踏まえた検討を行うべきという意見等が出されているが、今後、上記に掲げる留意点や判断要件のあり方等の検討の進捗も踏まえつつ、適切な組織体制のあり方について、さらに検討する。

 なお、地方における判断主体については、国の判断主体のあり方の検討を踏まえつつ、都道府県を単位とした組織とする方向で、今後検討する。その際、国と地方とで、公益性に係る判断等の取扱いに整合を欠くことのない仕組みとなるよう留意する。

5.その他

○公益性の判断に伴い付与すべき具体的な効果としてどのような措置を講ずることが適当か。〔個別事項討議用メモP.6~8(シーズ注「公益性判断に伴う具体的な効果について」)参照〕

○定款の定めるところにより、社員又は第三者に対して拠出金(仮称)の拠出を求めることができる社団形態の法人について、公益性判断の観点からどのように考えるか。

○財団形態の法人に必要な規律等については、非営利法人ワーキング・グループにおける検討状況も踏まえ、検討する。

資料2
個別事項討議用メモ

法人の目的について

 公益性を有する非営利法人(以下、法人)は、「不特定多数者の利益」の実現を目的とすることを基本としつつ、その適切な受益者の範囲の考え方について、以下の点を踏まえて検討。

  • 「不特定」については、受益の及ぶ範囲及び共益の取扱いの考え方。
  • 「多数」についての考え方。

1.受益の及ぶ範囲

 法人の提供する財・サービスの直接的な受益者が特定の範囲の者に限られる場合であっても、受益の効果が特定の範囲の者に限定されないときは、公益と位置付けることができる場合があるのではないか。

 ただし、結果的にその周囲に何らかの受益の効果が及ぶだけでは公益目的とは言えず、その効果が広く社会など不特定多数に及ぶことを積極的に意図して事業を行い、その事業を媒介にして社会全体あるいは十分に広い範囲に利益が及ぶことが必要ではないか。

 また、この場合、受益の効果が社会全体あるいは十分に広い範囲に及ぶことをどのように判定するか。個々の事業について、受益の効果の広がりを判定する必要があるのではないか。

(参考)

ア 結果的にその周囲に何らかの受益の効果が及ぶと考えられる例

 特定業界の職員の福利厚生を推進することで、結果として当該業界の事業の健全な発展に寄与する場合

イ 特定範囲の者を受益者とする事業を媒介にして広く社会に利益が及ぶと考えられる例特定事業者を対象に一定の講習を行うことで、事業者の公正競争が促進され、消費者保護・公正競争確保に寄与する場合

2.共益の取扱い

○「公益性を有する法人」であることから、法人の本来的目的としては、公益を目的とし、共益を目的とすることは適当ではない。これについては、法律においてその旨規定されるべきものと考えられる。なお、上記「1.受益の及ぶ範囲」の考え方によれば、その受益の効果が法人の構成員に限定されるような場合は、共益となる。

○したがって、共益を法人の本来的目的とすることは適当ではないが、共益的な目的・事業については一定程度認められるのではないか。法律上の規定と、個々の法人の定款等を照合するにあたり、共益的な目的・事業はどのような考え方により、どのような範囲で認められるか。

  1. 共益を法人の本来的目的である公益目的との因果関係を重視して捉える考え方。法人の本来的目的である公益目的を実現するために必要な範囲内で共益的な事業を行うことは可能とする。

    -この場合、法人の本来的目的である公益目的に必要でない事業を行うことは認められないこととなる。なお、「必要な範囲内」の判断にあたっては、広範な裁量が生じるおそれがある。

  2. 公益を主たる目的とし、共益は従たる目的となる範囲内で認められるものとし、事業の量的な側面に着目して捉える考え方。すなわち、共益的事業は従たる事業となる範囲内で可能となる。

    -この場合、共益的事業の量的割合は制約を受けるものの、法人の本来的目的である公益目的との関係で事業内容を制限されることはない。なお、事業の基準の設定如何によるが、客観的な判断が可能。

○なお、構成員が特定の者(特定業界企業、同窓生、特定資格保有者、特定企業職員等)に限られていても、法人の本来的目的が公益であれば、その目的に応じた事業を行っているかなど必要な要件に基づき公益性の有無を判断すればよいのではないか。

3.多数についての考え方

 「多数」については、必ずしも数の多いことを要件とするものではなく、例えば、まだ数人の患者しか発見されていない難病の研究や、将来的に難病を引き起こす可能性のある病原菌等の研究も公益性を有すると考えられることから、その受益の及ぶ範囲も踏まえ、柔軟に解することとしてはどうか。


法人の事業について

 公益性を有する非営利法人が行う公益的な事業としては、市場経済では適切な供給が困難な財・サービスを提供する事業であることを基本とし、公益目的との関係で、事業による受益の及ぶ範囲が社会的な広がりを有するものである必要。

1.事業列挙の適否

 具体的にどのような事業が公益性を有するかを判断するに当たっては、大別して以下の2つの考え方があると考えられるが、どのように評価するか。

A: 公益性を有する事業について、法令や運用指針等により、できるだけ具体的に列挙することとし、これに該当しない場合は公益性を有しないものと判断する。
B: 価値観や社会のニーズが多様化していること踏まえ、事業は具体的に列挙しないか、少数の一般的な例示にとどめ、公益目的との関係で、事業による受益の範囲がどの程度社会的な広がりを有するかどうかという観点から公益性の有無を判断する。
考え方
主な
長所
  • できるだけ裁量の少ない客観的で明確な要件とするとの要請に合致。
  • 公益性の有無の予測可能性が高い。
  • 時代の変化等により生ずる新たな公益的な事業に機動的に対応することが可能。
  • 一般的な公益性を取扱う仕組みと位置付けることが容易。
主な
短所
  • 時代の変化等により生ずる新たな公益的な事業に機動的に対応することが可能か。
  • 価値観や社会のニーズが多様化している中、事業を列挙しつくすことが可能か。
  • 一般的な公益性を取扱う仕組みと位置付けることが可能か。
  • できるだけ裁量の少ない客観的で明確な要件との要請に合致しないおそれ。
  • 公益性の有無の予測可能性が低い。
  • 結果的に殆どの事業に公益性を認めることとなるおそれ。

2.公益的事業の割合

 具体的判断要件として、例えば、以下の案についてどのように考えるか。

  • 公益的事業の規模は、総支出額の2分の1以上であることとし、判断主体等が、特に合理的理由が認められると判断する場合に限り(注)、この基準を超えることも許容する。この場合、併せて、公益的事業の割合が基準を超える合理的理由について情報開示を求めることとする。

(注)例えば、事業の特性等に応じた合理的な判断要素を勘案することも考えられる。

3.収益的事業に伴う利益の公益的事業への使用

 具体的判断要件として、例えば、以下の案についてどのように考えるか。

  • 収益的事業(注)に伴う利益については、原則として公益的事業のために使用することとする。ただし、判断主体等が、特に合理的理由が認められると判断する場合に限り、例外的に利益を公益的事業以外の事業のために使用することも許容する。この場合、併せて、利益を公益的事業以外の事業のために使用する合理的理由について情報開示を求めることとする。

(注)本項にいう「収益的事業」とは、法人の健全な運営を維持し、十分な公益活動を行うための収入を確保するために公益的事業に付随して認められる公益的事業以外の事業であり、いわゆる税法上の収益事業や、公益的事業であるが収益を生ずる事業とは異なる。

4.公益的事業の営利競合等

 社会通念上、営利企業として行うことが適当と認められる性格・内容の事業を公益的事業として行うことは不適当であり、特に、法人の事業が、著しく民間営利活動を阻害していることが明らかな場合は不適当と考えられる。どのような具体的要件により、そのような状態を排除することができるか。


内部留保の取扱いについて

1.基本的考え方

○公益的な事業を適切かつ継続的に行うためには、一定の手元流動性は必要。しかしながら、不特定多数の者の利益の実現を目的とする非営利の活動であれば、本来単年度の収支において大幅な黒字を有するものではないと考えられる。また、本来公益的な事業のために使われるべき資金が、使われることなく法人内部に蓄積されることは望ましくない。税制上の措置との関係を考慮すれば、適正な法人活動を制約しない範囲で、将来の公益的な事業の実施に必要な範囲を超えて過大な資金等を留保することに対する何らかの規制が必要であると考えられる。現行制度においても、こうした考えから、現行の指導監督基準において内部留保に関する規律が設けられている。

 また、こうした合理的な範囲の規制は、むしろ公益性を有する法人や、公益性を取り扱う仕組みに対する社会的信頼の維持に資するとも考えられるのではないか。

2.規律のあり方

○内部留保の定義について、指導監督基準上の「いわゆる内部留保」の範囲が曖昧であるといった指摘等も考慮すれば、適切な会計基準等を踏まえ、明確化が必要。

○実態ヒアリングの結果等を踏まえれば、内部留保の水準に関し、一律の基準をすべての法人に適用することは合理的ではないのではないか。例えば、以下の案について、どのように考えるか。

  • 一定の基準(例えば、一事業年度分の事業費及び管理費等といった水準や、現行の運用指針の基準など)を設け、その範囲を超えるような過大な資金等の留保等は認めないこととする。その際、こうした内部留保をどのように捉えるか(内部留保の定義の明確化等)及び一定の基準を超える内部留保の取扱いについては、さらに検討を行う。

     ただし、判断主体等が、特に合理的理由が認められると判断する場合は、この基準を超えることも許容するものとする。この場合、併せて、内部留保の基準を超える合理的理由について情報開示を求めることとする。

※なお、公益的な事業の実施のために資金を適切に使用しないことが問題との観点から、いわゆるペイアウトルールに類似する仕組みについて、その実行可能性を含め、検討する。その際、アメリカにおけるペイアウトルールは税法上の措置であることに留意。


公益性判断に伴う具体的な効果について

○公益性判断に伴う効果として、どのような効果が考えられるか。

  • <呼称の使用>

     公益性に係る判断要件を満たした非営利法人について、法人の名称とは別に、何らかの呼称において他と区別されることにより、こうした法人の社会的信用が高まり、寄附や労務の提供等を通じて、その活動の促進に資する。

  • <公益性の判断主体等による情報提供>

     例えば、公益性の判断主体等が、非営利法人が情報開示する事項、提出された各種報告書等をデータベース化し、インターネット等で公開。これにより、非営利法人間で活動の実態・実績を比較しやすくなる。

  • <公益性の判断主体等による相談・助言>

     公益性の判断主体等が、公益的な活動を行う(又は行おうとしている)非営利法人の求めに応じて、例えば、次のような業務を行い、非営利法人による公益的活動の促進に資する。

    • 公益性に係る判断を受けようとする非営利法人や既に公益的な活動を行っている非営利法人に対し、関連法令等についての説明や法人運営の判断要件への適合性について相談に応じる。
    • 非営利法人による公益的活動について蓄積される情報を活用し、公益的な活動を行おうとする非営利法人等に対し、相談・助言(例えば、他法人の活動事例・適切な運営手法等の紹介、国等による特例措置等についての情報提供等)。
  • <しっかりした規律の確保>

     公益性に係る判断を受けた非営利法人は、必要なガバナンスの確保、判断要件の遵守等の義務を負うことにより、こうした法人の社会的信用が高まり、寄附や労務の提供等を通じて、その活動の促進に資する。

  • <税制上の特例措置>

     現行法人税制では公益性を有するなど一定の場合に税制上の優遇措置が講じられている(税制上の措置を講ずるに当たって必要となる要件と公益性に係る判断要件とが整合的でない場合には、税制上の観点から独自の要件が必要となる可能性)。

  • その他どのような効果が考えられるか。
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