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2002年の報告

2007年08月29日 12:07

「NPO/財団のための「ファンド・レイジング」戦略」報告

 2002年8月22日(木)午後2時-5時、東京都新宿区の新宿文化センターにおいて、表記の講演会が開催された。主催は助成財団センターと日本NPOセンター。来日中のアジア財団副理事長のトーマス・フリン氏が講師を務め、米国におけるファンド・レイジング(募金活動)の技術や現状について説明を行った。

 フリン氏は、劇場、タフツ大学、ペンシルバニア大学などで、ファンドレイザー(募金担当者)として活躍し、その腕を買われて今年からアジア財団の副理事長に就任したファンド・レイズの専門家。会場には、40名近いNPOや財団関係者が集い、質疑応答も活発に行われた。

 以下は、フリン氏の説明の要旨である(質疑応答部分も含む)。


 米国において、寄附には、個人からの寄附、財団からのプログラムへの寄附、また企業の社会貢献活動による寄附があるが、本日は個人からの寄附を中心に話をする。というのは、ここ15年間、個人からの寄附が、企業や財団からの寄附よりも伸びているからである。

 個人からの寄附には、毎年寄附依頼をする「アニュアル・ギフト(毎年度寄附)」、金額の大きい「大口寄附」、そして遺贈などの「プランド・ギフト(計画的な寄附)」がある。全体的に最も金額が大きいのはアニュアル・ギフトである。以下、この3つを順番に説明する。

 「アニュアル・ギフト」をもらうための手法は年々精緻になってきており、その中心は「DM」と「電話による勧誘」である。DMには、1~1ページ半程度のパーソナルなタッチの手紙を付け、$50、$100など、具体的な金額をあげてお願いする。

 なお、お願いする相手はいくつかに分類して、その相手に相応の金額を依頼する。以前、ペンシルバニア大学(注:米国では大学や病院などもNPOに分類される)でファンド・レイザーをやっていた時には年間12万5千通ものDMを、劇場にいた時にも年間3万通ものDMを送付した。なお、米国では、病院が入院していた元患者に寄附依頼のDMを出すのもよく行われている。

 電話の勧誘はDMとともに行うもので、以前はボランティアがやっていたが、今は専門職が行うようになっている。彼らには、時給にプラスして実績ベースの給料が支払われる。このため、ボランティアがやっていた時よりも効果が上がってきている。

 この10~15年間で改善されてきたのは、ファンド・レイズに関わる技術である。優秀なソフトウェアが開発されており、寄附者のトラッキングが容易にできるため、個人情報や過去の寄附状況がすぐに分かる。このソフトウェアでは、氏名、住所、これまでの寄附金額など、寄附者一人一人の情報が一画面ずつ見られる。病院のファンド・レイズだったら過去の入院情報、学校だったら卒業年度など、募金活動に有効な情報も入れられるようになっている。

 なお、寄附依頼においては、以前寄附した人には、前の寄附金額より大きい金額をお願いするという手法をとっている。長期的に、どんどん寄附額のレベルを上げていくことによって収入も上がっていく。

 電話による勧誘は、いつでも歓迎されるとは限らない。一家団欒の時間に寄附勧誘の電話は迷惑ということもある。州によっては、夜9時以降や週末の勧誘電話を禁じているところもある。しかし、それでも電話勧誘は、募金方法として最も多く使われ成功している手法である。最近、e-mailでの寄附依頼の試みはあるが、成功したとは聞いていない。

 次に「大口寄附」だが、この15年間で変わったことのひとつは、大口の個人寄附者が増えてきているということ。以前は、一人で100万ドル以上を寄附する人はほとんどいなかった。ところが、シリコンバレーに象徴されるように、新しい富裕者層が生まれ、大口寄附者も増加。そのため、NPOや財団側でも、ファンド・レイズのための職員採用にも変化が生まれている。一般的に、100万ドルの寄附を獲得するためには、18ヶ月の時間をかけて開拓と交渉を行う。500万ドルの大口寄附を得るためには3年かかると言われている。

 こうした寄附者開拓のためには、その計画もカスタマイズする必要がある。例えば、ターゲットとする寄附者がどんな価値観を持ち、誰を尊敬し、その人の家族はどう思っているか、などである。例えば、大学の募金の場合なら、その寄附ターゲットの人物が、議事長や学長を尊敬するような人であれば、理事長・学長からアプローチするということだ。ちなみに、米国の大学のこの25年間の傾向では、学長、学部長、教授であっても、仕事の30%はファンド・レイズにあてるようになっている。そうしないと、研究費が支給されない。州立大学でも、例えばUCバークレー校の場合、30年前は95%が州からの補助金だったが、今では38%しかもらえていない。

 なお、私がペンシルバニア大学でファンド・レイザーをしていた時は、その部署には30人のリサーチ専門家がおり、毎日、多数の新聞、雑誌、他団体の機関誌などを見て、どのビジネスが今成功していて、どこにお金があるのか、またそうした人との間にどのようなつながりを見出してアプローチできるかを調査していた。

 この大口寄附者について重要なことは次の4つのプロセス。

  1. 寄附者の絞込み
  2. 開拓
  3. 勧誘
  4. スチュワードシップ

 4番目のスチュワードシップというのは、寄附者とのコンタクトを継続するということで、例えば寄附をもらったらタイムリーな内に感謝状を送付したり、定期的にその後もコンタクトを行う。これにも技術はあり、シンプルなところでは、領収証の名前のスペルは決して間違わないとか(スペルのチェックを専門にする職員もいる)、教授がコンタクトするなら「今度、こんな本を出したので、ご興味があれば」と手紙を添えて贈呈したり、というさりげないやり方が重要。

 最後の「計画的寄附」というのは、遺書の中で寄附を約束してもらったり、基金を設立して寄附をしてもらう方法で、ますます重要度は高くなっている。病院や美術館などでは、この計画的寄附が全体の10~15%を占めている。例えば、ハーバード大学は、このための大規模なキャンペーンを実施し、27億ドルを集めた。ちなみにこのうち1億ドルは日本からの寄附である。この開拓方法としては、例えばパンフレットの資料送付依頼の欄などに「あなたはすでに遺書で寄附を約束していますか」などという質問項目を入れてチェックしてもらったりする。

 以上が3つの寄附の説明だが、最近は、国際的にファンド・レイズをするという傾向もある。80年代から米国のNPOはアジア、ことに日本に注目している。日本で1億ドルを集めたハーバード大学は、3人の職員をアジアでのファンド・レイズ担当としておいている。米国は、「日本は寄附に寛容な国」だと考えている。

 最後に、ファイド・レイズにおいて最も基本的かつ重要なことは次の2つであることを強調したい。

  1. ASK
    • お願いすること。この時、適切な人に適切な方法でお願いすることが重要
  2. THANK
    • 感謝を表明すること。寄附をもらったら、タイムリーに、適切な人によって、適切な形で感謝を伝える。これが将来の寄附につながる。そして、その寄附者を自分の団体に常に関係づけておくことである。

【 質疑応答より抜粋 】

Q:日本では、寄附によって節税できないため、どのように寄附者を動機付ければよいかがが難しい。米国においては税控除がどのような役割を担っているか?

A:アジア太平洋フォランソロピー・コンソーシアムという団体が実施した、7カ国(日本は含まれず)の社会貢献活動に関する調査によると、税控除の制度が無いにもかかわらず寄附している人がいるということが分かる。寄附者の動機を聞いてみると、例えば、大学への寄附者は「その大学で良い教育を受けたから」とか、病院への寄附者なら「元気になった感謝の印として」などというものである。その他にも「同僚から頼まれたから」とか「競合会社が寄附しているから我社も」などというものもある。税控除があるからすぐに寄附が集まるということでもないかもしれない。

Q:もらった寄附の使途に関して、どう寄附者に報告しているのか?

A:通常は一年に一回報告を行う。具体的なプロジェクトへの寄附であれば、そのプロジェクトに関する報告書もつける。奨学金への寄附であれば、奨学金を受け取った学生から「おかげさまで」というような手紙をつけることも。重要なのは、定期的に寄附者にコンタクトすること。最近、米国においてはどこにお金が使われたかについての情報の要求が高くなってきている。そのため、寄附者に情報を与え続けることは大事だ。

Q:私たちが活動の中で感じていることは、個人寄附者は、組織の管理費にではなく、現地に毛布を送るなど、実際の活動に使って欲しいという希望があるということ。しかし、管理費は必ず発生するもの。米国ではこの点はどう考えられているのか?

A:米国でも、使途を問わない寄附というのは減ってきていて、何に使われたのかを寄附者はちゃんと知りたがるようになってきている。しかし、管理費が必要であることも知られている。例えば、管理費に30%使われるというなら許容されるだろうが、70%なら問題だろう。以前、ユナイテッド・ウェイという団体の管理費について、大きすぎるということでスキャンダルになったこともある。しかし、受け入れられるレベルなら良いと思う。

Q:今日の話では、大学や病院などある程度の規模があって確立されているようなNPOの例が多かったが、例えば貧困地区の現状を変えようとするなど、社会問題を扱っているような団体への寄附はどうなのか?

A:確かに、政治的なからみもあって、社会問題に関して活動をしているようなNPOへの寄附はためらう人も多い。しかし、例えば女性の権利の分野について活動しているNPOはファンド・レイズで成功しているようだし、社会教育の分野のNPOもうまくいっているようだ。

文責:轟木洋子

2002.10.03

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