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NPOと自治体

2007年08月23日 17:30

パートナーシップ(4)特定非営利活動法人ねこだすけ

コーナーのご紹介:

このコーナーでは、NPOが実際に取り組んでいる地域課題を通して、NPOと自治体のパートナーシップがどうあるべきかについて考えていきたいと思っています。

活動の現場で実際に起きていることを通じて、NPOの限界、行政の限界がどういう点にあるのか、またそれぞれが果たすべき役割は何かについて、浮き彫りにしていきます。


団体名:

 特定非営利活動法人ねこだすけ

【団体概要】

ねこだすけは、人とねこが快適に共生できるまちづくりを通じて都市環境の保全を目指すNPOです。ねこだすけによると、捨てねこ、交通事故、殺傷犯罪(又は虐殺)や殺処分により、全国で1年間に100万匹ものねこが死んでいるそうです。ねこだすけは「人と動物がすてきに共生できるまちづくり」を合い言葉に、「捨てない」「殺さない」「増やさない」「逃がさない」「苦しめない」「生まれたら一生世話をする」ことを提案、地域ねこ計画のコーディネートや情報発信、ねこの保護・救済、行政への要請や他団体とのネットワークづくりなどの活動を行っています。

【協働事業の内容】

ねこだすけは、東京都が平成13年から3年計画で、作成した野良ねこ対策モデルプラン「地域ねこ計画」事業をコーディネートしています。この計画の浸透を受けて東京都は、平成16年より「人と動物との調和のとれた共生社会の実現」を図る動物愛護推進総合基本計画に「地域ねこ」を取り入れています。「地域ねこ計画」とは、飼い主のいないねこを「野良猫」ではなく、「地域ねこ」として、地域全体の問題としてとらえます。地域住民の話し合いで「ねこも命があり、行政に対策を望むだけではなく、地域で適正に管理しよう」という合意を得て、ねこに不妊治療を施し、えさやりや糞尿始末などのルールづくりを住民がすることで、ねこを殺さずに自然に減らそうとする事業です。

屋内飼育のねこが10年以上生きるのに対し、「飼い主のいないねこ」の寿命は5年程度と言われており、手術を受け適正に管理されたねこが増えれば、ねこの数は自然に減ることになります。

3年間のモデル計画では、まず調査を元に、モデル事業が実施できる条件を備えた場所を選び出します。モデルに指定された地域では、計画の推進役となってくれる住民がコーディネーターとなり、「その地域で地域ねこ計画が進行している」ことを他の住民や自治会、地域行政窓口、警察などに伝えて、理解と協力を求めていきます。

その際、ねこへの苦情が多い家を中心に回って、ねこへの苦情や考え方を十分聞き、「地域ねこ計画」実施の具体的なルールづくりにむけた情報収集を行います。ねこの習性に従えば簡単に解決できる問題が苦情としてあげられれば、専門的な知識や問題解決の提案をすることもあります。

ねこについての知識や啓発資料、「地域ねこ計画」周知のためのチラシ、パンフレットなどは、ねこだすけが提供します。

次に、行政の担当者が地域に出向き、住民に計画の説明会を行いますが、この時、ねこの問題を通じて住民の相互理解が進むようにとりはかるのも、コーディネーターの役割です。住民同士の話し合いの中から、「地域ねこ」のえさやりや糞の始末のルールを決めた後、安全な罠を使ってねこを捕獲、手術します。

モデル地域のねこの手術は、東京都の職員獣医師が行います。

手術を受けたねこは、その目印として耳に「ピアス」をつけられるため、「ピアスをつけたねこは地域ねこ」ということを住民に周知して、まだ手術を受けていない「飼い主のいないねこ」の発見に役立てるとともに、小動物殺傷犯罪の予防や苦情解決につなげていきます。

地域でのイベントの様子

【協働事業の背景】

「迷惑な動物は保健所に連絡して引き取ってもらえばいい」という安易な考えから、行政にはたえず「ねこの被害」の苦情が持ち込まれています。

行政の野良ねこ対策の根拠となるのは「動物の愛護および管理に関する法律(改正動物愛護法)」です。昭和48年施行の「動物の保護および管理に関する法律(動管法)」が2000年に大きく改正されたものですが、改正前もあとも、野良ねこを殺処分する権限については法文に何の定めもありませんでした。しかし「求めにより行政は動物を引き取れる」とあるため、慣例的な解釈で、ねこの殺処分が行われています。

東京都ではこの状況を改善しようと、1998年に、ねこの飼養に関する実態調査を行いました。その結果、東京都には年間1万件以上もの「飼い主のいないねこ」への苦情が寄せられ、1万2千頭以上ものねこが殺処分されていることが明らかになりました。

ねこ対策について諮問を受けた、東京都動物保護管理審議会は、この調査を元に、1999年3月「「猫の適正飼育推進策についての答申」を出しました。この答申では、「野良ねこを減らす」ことに主眼をおくのではなく、ねこの適正な飼い方が広く理解され、ねこと人との良い関係づくりを目指す政策の必要があると指摘されました。ねこの適正な飼い方が守られていれば、飼い主のいないねこが増えるはずがないことが、調査により裏付けられていたからです。

答申に基づいて立案された「地域ねこ計画」モデル事業は、長期的な視野に立ち、住民が主体的に野良ねこ対策に参加する仕組みをつくろうというものでした。事業を成功させるためには、住民からの信望が厚く、計画をよく理解して推進役を引き受けてくれる人が必要でしたが、このような役割を引き受けてくれる人がどこにいるのか、地域の細かな情報を知らない行政の担当者には見当がつきませんでした。

そこで担当者は、長く地域で野良ねこの不妊手術を推進し、また「ねこ好き」の人の情報ネットワークを運営しているねこだすけに相談を持ち込みました。

野良ねこの不妊手術を進める愛護活動は昔から続けられてきましたが、手術にはお金がかかるため、個人の善意だけでは、1年間に一つがいが多くて30頭もの仔を生むというねこの繁殖スピードに追いつきません。「捕まえて手術する」ことへの抵抗感や、「動物は自然のままにしておく方がいい」という価値観を持つ人も多く、「手術して増やさないようにしよう」というメッセージが広い共感を得にくいことも、活動が広がらない原因でした。

ねこだすけは、長く不妊治療を進めてきた経験から、個人の善意の愛護活動だけでは問題解決につながらないこと、従来の活動の限界や問題点を突破するには、地域住民全体がオープンな場所でねこについて話し合えるようにしなければならず、そのためには、ねこが好きな人も、ねこが嫌いな人も納得できるメッセージを発信する必要があることを学んでいました。

東京都の提案する計画は、新しいやり方を試したいと思っていたねこだすけにとっても良い話であったため、最初のモデルケースになってくれそうな住民の心当たりから、第一号としてふさわしい人を探しあてて担当者に紹介、最初のモデル事業がスタートしたのです。

代表理事の工藤久美子さん

【協働事業の成果】

この事業では「不妊治療を受け、適切な関係で人と暮らしているのが地域ねこ」と定義して、ねこを排除するのではなく、ねこを巡る問題を話し合うことを通じて、住民の地域環境への関心を高めるとともに、住民の相互理解を深めることを重視します。

野良ねこの問題では、「ねこ好き」と「ねこ嫌い」の住民の間に深刻な対立が起きていることがあります。ねこが好きな人がねこをかわいそうに思ってえさをやることで、ねこの被害を受けている人の怒りがえさをやる人に向かい、人間関係に感情的なこじれを生じさせます。

ねこに対する気持ちの違いを話し合いで埋めることができないと、えさをやる人は見つからないように夜中にこっそりえさやりをするようになり、ねこをいまいましく思う人は隠れてねこを傷つけるようになります。

このような状態で行政が話し合いのテーブルを設定しても、「行政が何とかしろ」という話になり、住民がねこをよりよく理解して、問題解決に協力しあう関係づくりにつながりません。

ねこだすけの役割は、行政や町内会、地域の人間関係などから距離をとりつつ、地域の人脈をじわじわと掘り起こして、地域住民の中からねこを巡る話し合いのテーブルが生み出されるように働きかける仕掛けづくりです。

事業を主体的に進めているのは地域住民のボランティアであるため、苦情を言う人も人間関係から「何とかしろ」と強く言うことができなくなり、「ねこを減らせるなら、多少は協力しようか」という気持ちを引き出すこともできます。

モデル事業がうまくいっている地域では、ねこ問題による人間関係の対立が解消して、「ねこ好き」の人は隠れてえさをやらなくてもよくなり、「ねこ嫌い」の人も、不妊治療を受けたねこが増えているとわかって、行政への通報や小動物殺傷犯罪(虐殺等)の事例は聞かれません。そして、苦情が減ったことで、ねこの命を無駄に奪う必要もなくなってきました。住民によるねこ対策が犬の飼い主や公園サポーターを巻き込んで、「地域環境保全事業」に発展したモデル地域もあります。

にゃんにゃんセミナーの様子

【協働の課題】

「地域ねこ計画」の成功のポイントは、あくまでも住民ボランティアが中心に活動し、行政は法律に基づいたこと以外はよけいな手出しをしない、という関係を保つようにすることです。

行政が動けば、住民は「行政が何とかしてくれる」という考えを持って、「地域のねこと良い関係を作ろう」という主体的な行動が生まれなくなり、一部のねこ好きが一生懸命ねこを守るという従来の関係に戻ってしまうからです。

また、ねこが好きか嫌いかは感情の問題ですから、住民間の感情対立をうまく納めて、問題解決に積極的に骨を折ってくれる人が地域にいるかどうかも大切です。理屈では説明できない対立を納めるには、間に入る人の人間性がものを言います。地域から信頼され、「この人が言うことなら協力しよう」と思われている人は、どの地域にもいるわけではありません。

この事業の課題は、技術的なものより、むしろ、その地域を愛し、その地域のために働こうという人がいるかどうか、という、地域特性にあるといえるでしょう。

また、この事業では、東京都の職員獣医師が10頭までは無料で手術をするというものでしたが、3年間のモデル事業終了後も引き続き計画を進めるには、課題も残りました。手術にかかる大きなコストです。自治体によっては手術のための助成金を出しているところもありますが、ねこは手術費用を負担できないため、住民からの寄附を集めたり、事業に協力的な獣医師を求めるなど、継続的な活動を住民主体で行っていかなければなりません。

ねこだすけによれば、計画が成功する地域は、地元に住んでいる人たちが上手に連携できるところです。人の移動が激しく、計画の周知徹底が難しかったり、責任を持って計画を進める人が出にくい地域では、計画は進められないと言います。

住民の間にねこへの理解が深まり、責任を持ってねこを飼っている地域では、「飼い主のいないねこ」の被害はなくなっていくはずです。「地域ねこ計画」事業では、いかに主体的に地域の問題解決に継続して取り組めるか、という地域住民の姿勢が試されるのです。

ある地域ねこ

【結び】

「事業の成功は、とにかく、地域に『人』がいること」と、ねこだすけは強調します。

「すべては、人と人との信頼関係。苦情により排除しよう、という考え方では解決しないのです。ねこだすけは、誰が悪いのか、という犯人捜しではなく、誰がやるべきなのか、という責任の押し付け合いでもなく『みんなの問題』として地域で話し合えるテーブルを整えているだけです。」

モデル地域には、「野良ねこ」への苦情に悩む全国の自治体が、視察に訪れています。

「行政はNPOのことをよく知らないし、責任が問われることをおそれるから、協働事業では、お金があって実績があって、安心して組める相手かどうか、というところを見る。しかしNPOは本来、組めと言われたから簡単に組むようなものではない。お金をもらわない分、理念を曲げないからです。行政はNPOにお金を出さなくていいから、法律で定められたことで、十分できていないこと(飼い方の教育や捨てねこは犯罪であるというような啓発)を、しっかりやって欲しい。そうすれば、NPOは地域の問題解決のお手伝いができます。」

行政の肩代わりや下請け先、ビジネスとしてのNPOが注目される中、小規模なNPOであるねこだすけの「地域ねこ計画」に取り組む姿勢は、NPOが、行政や企業とは全く違う視点と発想で事業を行う存在であることを、鮮やかに見せてくれています。

NPOと、行政や企業との事業の違いについて、ねこだすけの考え方は明快です。

「ビジネスでいけるならこんなことやってないですよ。人間の福祉なら値段が付けられるけど、飼い主のいないねこの福祉に値段は付けられないじゃないですか。」

■ 団体概要

設立:

1997年(設立認証1999年)

事務局:

東京都新宿区

設立目的:

ねこと人とが適正に共生できることを目的に、動物愛護や救済などを行う個人ボランティアのネットワークとして発足した民間市民活動団体。

主な事業:

  1. 個人シェルターの支援
  2. 動物に関する法律の普及啓発と実行の推進
  3. 全国の愛護動物行政に対する改善要請や請願
  4. 緊急災害時の動物救済支援
  5. 不適切に飼養される動物の救済や改善要請
  6. 動物愛護の普及啓発イベント
  7. 動物ネットワークの推進
  8. 地域ねこ計画学習会

代表:

工藤久美子(理事長)

スタッフ:

なし(非常勤ボランティア・あり)

会員数:

約650名

直近の決算額:

約400万円(2003年決算)

財源:

寄附、会費

URL:

http://www.nekodasuke.net/

■ 取材関連情報

取材日:

2004年1月13日

場所:

ねこだすけ事務所
(〒160-0016 新宿区信濃町10 Tel&Fax03-3350-6440)

対応者:

工藤久美子(代表理事)、きやつねと

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