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特別連載コーナー

2007年08月23日 17:21

寄附・会員集めのABC(1)「高知こどもの図書館」 大原寿美さん

コーナーのご紹介:

このシリーズでは、上手に寄附や支援的な会費を集めておられる日本のNPOをインタビューし、少しゆっくりめのペースで6回ほどご紹介していきます。シリーズのなかには、寄附をくださる企業側の方のお話も入れる予定です。どうぞ、ご期待ください。

なお、このシリーズをホームページに掲載するにあたっては、「日本オラクル有志の会」よりご支援をいただきました。


第一回「高知こどもの図書館」 大原寿美さん

連載第一回は、高知市内にある「NPO法人高知こどもの図書館」です。
http://www.i-kochi.or.jp/hp/kodomonotoshokan/

高知こどもの図書館は、日本初の民間が運営する図書館として1999年12月開館しました。子どもたちが主役となり、その自由が尊重され、子どもと子どもに関わる人たちの心やすらぐ場所を提供するため、理事17名、職員3名、専門分野をもった実働ボランティア約40人が、図書館の運営を担っています。

高知こどもの図書館は、建物と水道・光熱費だけは高知県から提供を受けていますが、その他はすべてNPO法人で担わなければなりません。高知こどもの図書館の年間予算約1300万円のうち、繰越金を除けば収入の7割以上が会費・寄附金によるものです。残りの3割は、民間の基金などからの助成金と、バザー・講師謝金などの自主事業による収入です。

「これまでの4年間、会費と寄附金に支えられてやってきました」とおっしゃる館長の大原寿美さんに、開館にいたった経緯と会員・寄附金集めの工夫を伺いました。


<‘想い’と幸運に後押しされて>

高知こどもの図書館は1999年12月に開館したので、今年5年目ということになります。とはいっても、高知には子どもの文化、本に関わる数多くの集まりなどの30年以上の活動の歴史があります。そういう風土のなかで、開館前から、私たちは「こどもの本を語る高知大会」を、毎年夏に開催し、高知に子どもの本の作家や、編集者の方などを招くという活動を15年続けてきました。

緩やかなネットワークをつくってこうした活動を続けてきた私たちにとって、子どもの図書館をつくるのは夢でした。1995年に現在の県立図書館の移転構想がもちあがった時、そこを子どもの居場所として残してもらえないかと思いました。この図書館は高知城の敷地の一角にあるとても好きな建物だったからです。それで、仲間たちと「高知こどもの図書館をつくる会」をつくって賛同者を募ったらあっという間に5千人もの人の名前を集めることができました。それをもって、行政の方に話にいったのですが、残念なことに、財政難という理由でこれもあっという間に県立図書館の移転構想はなくなってしまったのです。

私は、本は人生の友達で、一番小さな文化財であると同時に、誰でもが楽しめる娯楽のひとつだと思っています。そして、私たちは子どもの居場所でもある図書館にとって大事なのは、本を手渡す「人」だと思っていましたから、やっぱり子どものための図書館をつくりたかったのです。それに、実は私たちは自分たちが楽しみ、選んだ子どもたちに読ませたい、残していきたい本を15,000冊くらいは集めることが可能でした。図書館活動は素人でしたが、県立図書館や学校図書館の方々、専門家をお招きして勉強会をしていました。無いのは場所だけだったのです。

その頃、高知県知事の橋本大二郎さんは、「車座談儀」というのをあちこちで開き、市民の話を直接聞いていらっしゃいました。私もこれに参加して、「橋本さん、どんな本がすきでしたか」と聞いてみました。そうしたら「赤毛のアン」と。それで、思い切って子どもの図書館の話をしたら、「それいいですね」と。知事は、全てをお願いされるのではなく、「ここまでは私たちでできます。でも、ここから先だけなんとかならないか」という話が好きな方のようでした。そうして、子どもの図書館をつくる賛同人になってくださったのです。

ちょうど、県庁に「こども課」がつくられました。それまでの教育委員会窓口では進展しなかった運動が「こども課」の少子化対策、子育て支援事業一環として「子どもの読書活動整備」が話し合いのテーブルに乗ることになりました。そうして県の建物をお借りできることになりました。図書館には向かない消費生活センターの跡でしたが、改修費と書架などの備品費が予算化されました。もうひとつラッキーだったのは、そのころにNPO法が施行され、私たちの団体も法人格が持てる制度ができていたことです。

建物と光熱費は出していただけることとなっても、後のことはすべて自分たちで整えなければなりません。他の公共図書館と同じように専門分野として図書館を運営しながら、私たちはNPOの特徴である活動を絡ませ、自分たちで資金も作っていこうと思いました。

大原さんの写真

館長の大原寿美さん

< 設立に向けての資金集め >

私たちにはお金はありませんでしたが、「図書館をつくる会」が集めてきた賛同者のリストが約5千人分ありました。1995年から、何かあるごとに趣旨を話して賛同してくださった方々から名前と住所だけをもらっていたのです。

それで、1999年の春に、私たちの思いを設立趣意書という手紙の形にして、賛同者の方々をはじめ、多くの人たちに会員になってくださるようにお願いすることにしました。でも、私たちは無名でしたから信用もありませんし、趣意書をただ持ってお願いにいっても会費・寄附は集まらないだろうと思いました。

そこで、この活動に賛同してくださる著名な方々に、この趣意書に名前を連ねてもらおうと思いました。私たちはそれまでに、子どもの本を語る高知大会に関わってくれた著名な方々とのコンタクトを大切にしていました。尊敬する方々でしたから、時には高知特産の鰹のタタキを送ったり、ブンタンを送ったり、ずっと親しい関係を作ってきていたのです。こうして名前を連ねてくださった方々には、石井桃子さん、松岡享子さんといった全国レベルで著名な人がいらっしゃいます。

それから、高知の著名な方にもお願いしました。まず、高知県知事の橋本さん、当時の高知市長、高知大学学長、文学館館長、美術館館長、高知新聞社社長など、高知では皆さん知っている方々です。

設立趣意書は、私たちの思いが伝わるよう、みんなで推敲に推敲を重ねました。でも、5千人もにダイレクトメールを出す財力はありませんでしたから、送付したのは2千通くらいでしょうか。あとは手当たり次第に手渡していきました。こうやって、設立までには600人を超える会員を得ることができました。

< 寄附者・会員に満足してもらう >

外観の写真

図書館の外観。黄色い看板は図書館のマーク。高知城や公立の図書館などに近接している。

私たちの収入のうち、会費と寄附金が占める割合は、7割くらいです。あとは助成金と自主事業費です。予算規模は約1300万円。3人の職員と、たくさんのボランティアに支えられて運営していますが、まだまだ十分ではありません。

でも、「足りないから寄附をください。会員になってください」とお願いしても全然ダメです。どうして子どもにとって本が大事なのか、なぜ私たちはこういうことをしているのか、どうして民間の図書館なのか、ということを伝えることが大事です。ここを抜いて活動内容だけ話してもお金は集まりません。

それから、寄附者・会員が望んでいることにきちんと応えることです。以前、とっても良い椅子をいただいたことがあります。その時、寄附者は、寄附したことが分かるように椅子にラベルを貼って欲しいと希望されました。最初、私たちは、できるだけ小さなラベルをできるだけ目に付かないところに貼ろう、と考えました。でも、はたと気づいたのです。寄附した人が図書館にいらした時、自分の椅子がちゃんと使われていることがわかり、使っている人も誰が寄附したのか分かってはじめて、寄附者は「よかった」と思われるのではないかと。それで、ラベルは椅子の背に貼ることにしました。

新しい本を買う予算は少ないのですが、実は意外や意外、ちゃんと新しい本を入れています。寄附をくださる方の中には、お金ではなく本を寄附したい、という人や団体があります。それで、日頃から欲しい本のリストをつくっておいて、こうした寄附者には、リストの中の本を買っていただいて寄附してもらっています。あるいは、お金と本の指定をいただいて、こちらでその本を購入することもあります。開館前から今に至るまで、新刊本を寄贈し続けて下さっている個人の方の力も大きいのです。

本を寄附してくださる寄附者には、たとえばライオンズクラブとか、ベンチャークラブとか、地元の企業などがいらっしゃいます。いただいた本の後ろには、寄附団体のハンコを押します。だから、寄附された本の後ろには、高知こどもの図書館のハンコとともに、寄附団体のハンコも押してあります。

寄附者からお金をいただいて本を買ったら、本が揃った時点で寄附者に連絡します。そうしたら、カメラを持って写しにこられるんです。団体で寄附された場合は、団体の他の方々にちゃんと報告しないといけないんですね。だから、その本を机に並べて写真を撮っていかれるのです。

団体会員になってくださっている企業からは、企業の広報誌を送ってくださるところがあります。図書館は本でいっぱいだし、他にもいろんな催しのチラシを置かせてといってこられる方が多いのですが、団体会員企業の広報誌やパンフには特別のコーナーを設けて、団体会員を大事にしていることをちゃんと示していきたい、と今考えているところです。

会員になっていただけると、資料といっしょに会員証と領収証を兼ねたものを送ります。この会員証を財布のなかにいれておいて、イベントなどに参加される時に真っ先に出して下さる方がいらっしゃいます。最初は、領収証としての機能の方が大事だと思っていたのですが、会員証は会員だという自覚をしてくださる道具になっていると、あらためて見直しています。

会員への対応は、なかなか神経を使うものです。会費が入ったら1週間もおかないでこの会員証と領収証を送るようにしています。すでに「ありがとう」というメッセージはこの領収証に印刷されているのですが、さらに空いているところに、手書きで近況などを書きます。「あの理事の知り合いの方だ」と思ったら、その理事にメッセージを書いてもらいます。会費をいただいているのに、再請求するとがっかりして黙ってやめてしまわれる方もおられるので、本当に気を付けなければなりません。

内部の写真

図書館の内部。撮影日は休館日だったが、普段は子どもたちが楽しく時間を過ごしている。

< 寄附・入会をお願いする >

実は、私たちの図書館に一番寄附をしているのは理事です。まるで、自分の羽を抜くように(笑)。自分が寄附するだけではなく、17人の理事のうち資金集め担当の理事5人は実際に企業などへ寄附のお願いにいったりしています。年に何十回も行っているわけではありませんが、私たちのようにお給料をもらっている職員がいくよりも、報酬を得ていない理事がいく方が説得力があると思っています。私たちがいくと、まるで生活のために援助を、といっているようにみられかねないですし。

お願いにいくにあたっては、場当たり的にいってもダメです。紹介者があると強いですね。ですから、理事の知り合いの知り合いとか、賛同者のツテとかをたどって、電話をしていただいたりします。そこでうまくいったら、またそこから次の方を紹介してもらう、というようなことを今までやってきました。

お願いする時には、本の話をしたらいい人、NPOの話をしたらいい人、と相手が関心をもつことから話をはじめます。設立前の賛同人集めのときは、私自身も何人か訪問しましたが、訪問しようという人のなかに私と郷里が同じ方がいらしたので、「郷里がいっしょですから」といってお邪魔をしました。そうしたら、本当にすぐ近くだということがわかり、昔話に花が咲きました。この方は、高知女子大の学長さんで、賛同人になってくださいました。

実は私自身もあまり寄附を人にお願いするのが得意な方ではありません。だから日頃は、理事のみなさんにおまかせしていますが、寄附の基本はお願いすることで、そうしてはじめて道が開けるのだとは思っています。去年の夏休みに高校の同窓会があって出席しました。みんなが近況報告するのですが、私は募金箱をかかえていって寄附のお願いをしてみました。そうしたら、なんと7万円も集まったのです。やはり頼めば道は開けるのだと思って嬉しかったですね。お願いを素直にすることが大事だと思いました。


高知こどもの図書館は、常時寄附を募集しています。寄附は、次の郵便口座へ。

  • 郵便振替番号 01690-9-48585
  • 振替番号名義 高知こどもの図書館

大原寿美さん プロフィール

高知こどもの図書館館長。
高知県池川町生まれ。子ども劇場の事務局を経て、1995年の「高知こどもの図書館をつくる会」発足時より事務局の一員となり、1999年12月に図書館が開館してからは、館長として運営の責任を担っている。

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