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NPOの信頼性

2007年08月23日 17:54

訪米調査の事例から(12)アメリカン・インスティチュート・オブ・フィランソロピー(AIP)

2005年9月5日から17日まで、シーズでは国際交流基金日米センターの助成を受けて、米国のワシントンD.C.、ボルチモア、ニューヨーク、シカゴ、インディアナポリスの5都市を訪問しました。訪問団は、シーズ事務局長・松原明、茨城NPOセンターコモンズ事務局長の横田能洋、グローバル・リンクス・イニシャティブ事務局長の李凡、シーズ・プログラムディレクターの轟木洋子の4名(敬称略)で構成。NPOの信頼性に係る日米の現状、また信頼性向上のための取組みなどについて、23の団体を訪問し、米国側の専門家たちと意見交換をしてきました。

そのなかで、特に印象に残り、日本の皆さんにも参考になると思われる15の記録をご紹介します。

※ご紹介する方々の肩書きや団体の活動などは、訪問当時のものであり、その後、変わっている可能性があります。ご了承ください。また、文責はシーズ事務局にあります。

第十二回 アメリカン・インスティチュート・オブ・フィランソロピー(AIP)

事務局長 ダニエル・ボロチョフ氏
アシスタント ローリー・スタイロン氏
2005年9月14日(水)訪問

アメリカン・インスティチュート・オブ・フィランソロピー(AIP)は、NPOを監視し、NPOに関する情報提供を行うNPO。寄附者に必要な情報を提供することで、寄附の効果を最大限に高めることを目的としている。AIPでは、各NPOがIRS(内国歳入庁、日本の国税庁にあたる)に提出した確定申告書のフォーム上に記載された表面的な情報ではなく、寄附金の実際の使途についてよりよく理解できるよう、監査済みの財務諸表をもとに詳細な財務分析やその他の報告書を提供している。そのため、NPOが独自に提供している財務報告とは異なる内容の報告を提供することがある。独立性を堅持するため、調査対象となるNPOからは一切料金は受け取らない。


訪問団:

 貴団体は、いわゆるNPOのウォッチドッグ(番犬、監視団体)のひとつと捉えているが、どのような組織で、どのようなことをしているのかをまず聞かせて欲しい。

ボロチョフ氏:

 私たちは、どこからも独立したNPOのウォッチドッグ組織。会員が8千~9千いて、彼らの寄附(会費)や、一般からの寄附が主な収入。事業規模は、35万ドル(4000万円弱)くらい。私たちの監視対象となるNPOは会員ではない。彼らからお金をもらうと、公正な評価ができなくなるので。スタッフは5人で、他に弁護士やウェブデザイナーなど専門分野で協力してくれる人がある。

事業としては、各NPOの評価や格付けを行ったり、財務諸表の分析をしている。この財務諸表の分析を行っているのは2~3人だ。たとえば、NPOが報告している財務諸表を分析したら、実際には全然内容が違うといったことがある。なかには、資金調達のためのコストがゼロと書いてあるNPOがあったりもする。米国のNPOの財務諸表には一貫性がない。だから、私たちが分析を行い、情報を一般に提供している。また、賢い寄附を行うことが重要であることを一般市民に向けて呼びかけたりもしている。

気をつけていることは、私たちは中立な団体であるということ。米国には、異なった価値観をもつNPOが多数存在する。たとえば、中絶反対とか賛成とか、銃の所持に賛成とか反対とか。私たちは、こういう議論には中立。焦点をあてているのは、ガバナンスと寄附の効率的な活用である。

訪問団:

 米国には、IRS(内国歳入庁、日本の国税庁に相当)や、州の司法長官室など、NPOを監督する政府組織があるのに、なぜこうしたウォッチドッグが必要なのか。

ボロチョフ氏:

 政府は、国会などで定められた法律を施行し、違反があったら取り締まるという役割を持っているが、合法的なことと倫理的なことは、必ずしも一致しない。合法的なことではあっても、寄附者が事実を知ったら憤るようなこともある。また、米国では宗教活動や教会などを規制できない(注:米国でNPOという時には宗教団体も含まれる)。

私たちウォッチドッグは、政府のようにNPOの人を呼び出して指導したり、強制捜査したりするなどの権限はまったくないが、NPOの格付けをしたり評価をすることで、NPOにアカウンタビリティ(説明責任)を果たさせる役割を担っていると思う。私たちは、メディアとは良い関係を持っている。

訪問団:

 NPOに関して、具体的にはどのような問題があるのか。

ボロチョフ氏:

 たとえば、警察関係の団体や、消防関係の団体が個人の家に電話がかけてきて、募金活動をしているので寄附をくださいと呼びかける。寄附がもらえることが分かると、その電話の最後の方で、飲酒運転はいけませんとか、シートベルトをしましょうなどのメッセージテープが流れる。そして、こういう団体は「これは安全教育である」とか「情報提供である」といって、寄附ではなくその情報提供料だと言い張る。こうやってごまかした形でお金を集めている警察や消防関係の団体がある。

それから、NPOのために資金調達(寄附集め)をする会社が米国にはたくさんあり、彼らがかなり強引なお金の集め方をして、そのお金を寄附目的にうたったNPOの事業に渡さず、自分のポケットに入れてしまうというのも問題になっている。これは、いくつか最高裁にまで行ったケースがある。米国には、言論の自由はあるが、だからといって使い道を約束したお金を勝手にしてよいということではない。

訪問団:

 実は昨年、ベター・ビジネス・ビューロー(Better Business Bureau:BBB)を訪問した。BBBもNPOの格付けをやっていた。ガイドスターもNPOのアカウンタビリティ促進の活動をしていて、日本で話を聞いたことがある。今回の訪米では、メリーランド州のスタンダード・フォー・エクセレンスの話もすでに聞いてきた。これらも、いわばNPOのウォッチドッグのようなものだと思うが、貴団体の優位性はどこにあるか。

ボロチョフ氏:

 まず、ガイドスターは、IRSに提出されたNPOの確定申告書をデータベース化して公開しているだけなので、ウォッチドッグとはいえない。良い事業だが、確定申告書は監査済みの財務諸表とは異なる。監査済みのものであればもっと良いのだが、各団体は確定申告書を書くときに監査まではしていない。

スタンダード・フォー・エクセレンスは、各NPOの運営の基準をつくり、どのような運営をするかというようなコンサルティングサービスを行っているがウォッチドッグではない。だから、今おっしゃったなかではBBBだけがウォッチドッグである。私たちAIPと異なるのは、BBBはNPOから料金を取ってやっているので独立性を維持するのが難しいのではないかということ。つまり、BBBに協力するというNPOだけの格付けしかしない。そうでないNPOは評価の対象外。私たちは、評価しようと思ったNPOがもし情報を提供してくれなかったら、なんとかして公的なところなどからでも情報を引き出して格付けを行う。

私たちの格付け評価は、AからFまでのランクに別れているが、たとえば私たちの目からは全然ダメでF評価を受けているNPOでも、BBBの格付けだと非常に良いものになっている場合がある。

訪問団:

 貴団体が格付けの対象としているNPOの数はどのくらいか。

ボロチョフ氏:

 500くらい。

訪問団:

 100万以上もある米国のNPOのなかで、500とはかなり少ないと思うが。

ボロチョフ氏:

 100万あるとはいっても、ほとんどのお金は一部にしか集まっていない。加えて、私たちは大学や病院などの地域の組織(注:米国でNPOという時は学校や病院も含まれる)は対象に加えていない。一般市民に向けて「寄附をしてください」と郵便や電話を使って寄附を募っているNPOが格付け評価の対象。

訪問団:

 格付けの対象となったNPOはちゃんと協力してくれるか。また、Fなどの悪い格付けをもらったNPOが怒ったりしないか。

ボロチョフ氏:

 協力状況は非常にいい。現在は、85%のNPOが私たちの調査に協力してくれる。もちろん、なかには評価を受けると成績が悪いのがわかってしまうといって協力したがらないところもある。私は、寄附者に向けては、アカウンタビリティ(説明責任)をちゃんと果たしているところに寄附するようにと言っている。

悪い成績をつけられたNPOが苦情を言ってくることはある。そういう場合には、その理由をきちんと説明する。しかし、概して苦情はあまりない。これまで格付け評価が高かったところが、低くなったという時に問い合わせをしてくることはある。彼らもアカウンタビリティを気にしているので、私たちの評価をウォッチしている。

訪問団:

 しかし、NPOにもコストはかかるし、事業規模が小さかったり、新規設立の団体は管理費の割合が大きくならざると得ない。

ボロチョフ氏:

 もちろん。私たちは、NPOをウォッチして評価もしているが、NPOがどのような事業をしているかということを一般市民に理解してもらおうともしている。NPOも管理費は必要だし、スタッフは合理的な給与をもらう権利がある。

先日、報道関係から電話があって、赤十字は職員の給与にお金を使いすぎているのではないかという問い合わせだった。寄附者もメディアも、NPOの職員であっても、給料をちゃんと払う必要があるということを分かっていない。赤十字などは、30億ドルもの規模の組織で、全米中の血液供給を管理している。そういうところで働いている人には、場合によっては何十万ドルという年俸だって必要なこともある。自分たちの給料と比べて「随分多いじゃないか。赤十字のような団体ならもっと低くていいんじゃないか」と思う人がいるが、それだけの巨大組織を運営するトップは責任も大きく、高い教育レベルも求められるのだから、給与が高いこともある。

それから、おっしゃるように新しいNPOは事業規模も小さく、そのための管理費割合が高くなることもあるので、設立3年未満のNPOは評価の対象外としている。また、予算が50万ドル(約5500万円)以下のNPOも対象外。一般の市民に向けては、企業もNPOも同じで、立ち上げにはコストがかかるものだと説明している。

訪問団:

 NPOに対してはウォッチを行い、寄附者には良い寄附者になるための情報提供をしているということか。

ボロチョフ氏:

 そう。ただ、寄附者には、私たちのように一つ一つのNPOについて調査するような時間も知識も忍耐力もない。だから、私たちが格付けを行って、何%のお金が本来事業に使われているかとか、募金の効率とか、どのくらい資金を蓄えているかなどということを数字で表して、理解しやすくしている。


AIPは、シカゴにあるNPO。訪問団は、ワシントン、メリーランド州ボルチモア、ニューヨークを経てシカゴに到着。シカゴで最初の訪問がAIPであったが、ご多忙のためか昼食をしながらの会合を提案され、街の中心にあるビルの摩天楼でのランチョン・ミーティングとなった。これは、カセットを回しながら、メモを取りながら、話しながら、片手でサンドイッチを食べるという技術を要するもの。結局はギッシリ肉や野菜の詰まったサンドイッチの中身を服にこぼしてしまい、会合後はホテルで着替えるはめになったのは、なんとも残念。けれど、この摩天楼からのシカゴの眺めはすばらしく、観光時間のまったくない訪問団には、一時の息抜きもできたのであった。

2007.01.30

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