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NPOの信頼性

2007年08月23日 17:45

訪米調査の事例から(3)米国上院財政委員会

2005年9月5日から17日まで、シーズでは国際交流基金日米センターの助成を受けて、米国のワシントンD.C.、ボルチモア、ニューヨーク、シカゴ、インディアナポリスの5都市を訪問しました。訪問団は、シーズ事務局長・松原明、茨城NPOセンターコモンズ事務局長の横田能洋、グローバル・リンクス・イニシャティブ事務局長の李凡、シーズ・プログラムディレクターの轟木洋子の4名(敬称略)で構成。NPOの信頼性に係る日米の現状、また信頼性向上のための取組みなどについて、23の団体を訪問し、米国側の専門家たちと意見交換をしてきました。

そのなかで、特に印象に残り、日本の皆さんにも参考になると思われる15の記録をご紹介します。

※ご紹介する方々の肩書きや団体の活動などは、訪問当時のものであり、その後、変わっている可能性があります。ご了承ください。また、文責はシーズ事務局にあります。

第三回 米国上院財政委員会

調査主任顧問 ディーン・ザービー氏
2005年9月7日(水)訪問

米国の連邦議会上院に設置されている財政委員会では、NPOの不正を報じた新聞などをきっかけに、NPOへの規制を強めようとしている動きが2004年から始まっている。財政委員会委員長のチャールズ・グラスリー共和党議員のもと、具体的に規制法案を検討しているのが、同委員会調査主任顧問のディーン・ザービー氏。

ザービー氏の法案検討の動きを受けて、NPO側では「ノンプロフィット・パネル」と呼ばれるNPOの連合体ができるなど、訪問時にはザービー氏とNPO側との応酬が繰り広げられていた。


訪問団:

 米国では、NPOに広く税制の優遇措置が与えられているが、議会において、これに関する検討をされようとしていると聞いた。どういうところを問題として捉え、そのようにしていこうと検討されているのかを伺いたい。

ザービー氏:

 現在、米国では「チャリティ」の幅が広すぎる。そのための問題がおきている。環境保護のためといって自分の土地をNPOに提供し、それによって納税を回避している人がいるが、その土地が本当にその環境保護のために使われているのかどうか、実際には分からなくなったりしている。チャリティの資格をもったNPOの病院が、慈善的な活動をしているかというと、普通の病院と特に変わらなかったりする。YMCAは巨大なNPOだが、ジムの運営については、営利企業と変わらないし、観光業をしている環境NPOもある。美術館をやっているNPOは、ギフトショップで大きな利益を出している。

あるNPOの関係者は、NPOの仕事でロンドンに出張する際、ファーストクラスを利用して妻を同行し、一泊千ドルもするような高級ホテルに泊まったが、その理由を尋ねたら「自分がロサンゼルスの有力者であることを示すためにはそのくらいのことをしなければならなかった」と答えたそうだ。しかし、こうしたことについて、監査をしたとしても現在の法律では何も罰することはできない。

米国では、一度チャリティとして認定されると、ほとんどずっと税制優遇を受け続けることができるが、私たちが考えているのは、たとえば5年おきくらいに定期的にその団体がミッション(団体の目的)に沿った活動をしているか否か、そのチェックをする必要があるのではないかということ。最初は、崇高なミッション(活動目的)を掲げていても、時代とともに社会も変化し、団体も変わってくることはよくあることだから。

訪問団:

 しかし、現在さえ、監督をする立場の州の司法長官事務局やIRSは、人手不足で監督がほとんどできていないと聞いている。そういう中で、規制だけを厳しくして機能するのか。

ザービー氏:

 NPOの中の一部の団体によって、自主規制や自主認定をするような仕組みを考えている。結局は、NPO業界の人たちが一番NPOを知っているから。そこが問題視するような団体は、政府の調査の対象になりうるということ。

その他に、透明性をあげるために情報公開ももっと進めること。そうすればメディアも関心も寄せることができるだろう。現在、米国ではNPOの確定申告書は、ガイドスターというNPOの協力によってホームページで公開されている。しかし、この確定申告書のフォームを見直すことも検討している。たとえば、スタッフの賃金、預金口座はどの銀行にあるのか、組織全体はどうなっているのかなど。

加えて、何がチャリティなのかという定義づけを強化する必要もあると思う。NPOで税制優遇を受けているのであれば、チャリティに沿った活動を義務付けることが必要だ。ガイドラインを作って厳しく義務化していく必要があるだろう。

訪問団:

 チャリティの定義づけとは、どのようなものか。

ザービー氏:

 いろいろな概念が考えられるが、例えば貧困救済、高齢者、教育、環境保護などだ。オーストラリアのNPOに関する法律は、米国よりチャリティの定義づけが具体的で優れているので、これを参考にしたらよいと思っている。オーストラリアでは、第一種のチャリティ団体、第二種のチャリティ団体など、細かく区分されており、税控除がそれぞれの種類に応じて存在している。

訪問団:

 考えられている改正法案は、いつ頃実現しそうなのか。また、どのような内容か。

ザービー氏:

 今年の秋に議会に提出して、年末までに法律の形になればと思っている。これには、大きく2つが盛り込まれている。一つは、NPOに対する寄附金を促進する措置。もう一つは、さきほどから話している規制の改革に関するもの。

税当局がもっと法の取り締まりができるよう、クリアなルールを作りたい。ある行為をはっきりと禁止するなどと盛り込むこと。現在の法律は、不透明で曖昧すぎるのが問題だから。

訪問団:

 NPOへの寄附金を促進する措置とはどのようなものか。

ザービー氏:

 例えば、9.11の同時多発テロ事件の後に分かったことだが、こうした大きな事件や災害が起こった時、国民はこうした問題に関わっているNPOに寄附をする。そうすると、違うことをしているNPOには寄附が反比例して少なくなってしまうという問題がある。こうしたことについても、考えていきたい。

なお、寄附にはいろいろな問題がある。例えば、現金ではなくモノでの寄附。米国では、モノでの寄附も税控除が可能である。だから、ある個人が中古車をNPOに寄附して、市場価値を4000ドルと計算して所得から控除したとする。自動車をもらったNPOはそれを市場に売ることになるが、その時に、仲介業者が入ったり、思ったより安くでしか売れなかったりして、結局実際には1000ドルしか入らなかったりする。こういうとんでもないことがおきている。だから、モノの寄附だと評価が非常に難しいため、できるだけ現金で寄附してもらうことを勧めようとしている。ただし、例外として、食品とか図書館に寄贈される古本などがあるだろう。


ザービー氏とは、日本の国会議員会館にあたる建物内で面会した。これほど多忙な人物が世の中にいるだろうかと思うくらいの忙しさのようで、通訳が話しているような短い時間でさえも書類を読んでおられた。そのような多忙ななかで会っていただけたことに感謝する次第である。加えて、他の団体を訪問した際には、必ずひとしきりザービー氏のことが話題となり、本当に実際にお会いできてよかったと感じた。

(写真:アメリカ合衆国議会議事堂の前に立つ訪問団報告者)

【追記】

上院財政委員会の規制法案は、NPO側「ノンプロフィット・パネル」の懸命な努力の結果、かなりNPO側の提案が含まれた形の改革法となり、2006年8月17日にブッシュ大統領が署名した。2006年9月27日には、グラスリー財政委員長からノンプロフィット・パネルに丁寧な礼状が送られている。

2006.11.14

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