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NPOの信頼性

2007年08月23日 17:51

訪米調査の事例から(9)ニューヨーク州司法長官室チャリティ局

2005年9月5日から17日まで、シーズでは国際交流基金日米センターの助成を受けて、米国のワシントンD.C.、ボルチモア、ニューヨーク、シカゴ、インディアナポリスの5都市を訪問しました。訪問団は、シーズ事務局長・松原明、茨城NPOセンターコモンズ事務局長の横田能洋、グローバル・リンクス・イニシャティブ事務局長の李凡、シーズ・プログラムディレクターの轟木洋子の4名(敬称略)で構成。NPOの信頼性に係る日米の現状、また信頼性向上のための取組みなどについて、23の団体を訪問し、米国側の専門家たちと意見交換をしてきました。

そのなかで、特に印象に残り、日本の皆さんにも参考になると思われる15の記録をご紹介します。

※ご紹介する方々の肩書きや団体の活動などは、訪問当時のものであり、その後、変わっている可能性があります。ご了承ください。また、文責はシーズ事務局にあります。

第九回 ニューヨーク州司法長官室チャリティ局

局長:ジェラルド・ローゼンバーグ氏
職員:カリン・ゴールドマン氏
2005年9月12日(月)訪問

米国において、日本のNPO法人の「所轄庁」に相当するのが、各州の司法長官室チャリティ局(Attorney General’s Charities Bureau)。ここが、法人化するにあたっての事務を行い、州内のNPOの監督を行っている。NPOの資金調達や管理、資金利用、寄附者と受益者の保護の確保などの監督を行っている。ジェラルド・ローゼンバーグ氏はニューヨーク州の司法長官室チャリティ局の局長(Bureau Chief)であり、カリン・ゴールドマン氏は同局で長年仕事をしてきたベテラン職員。

NY州では、NPOの規制に関する法案を出しているということだったため、どのようなものかについても聞いてみた。


訪問団:

 私たちは内国歳入庁(IRS:日本の国税庁にあたる組織)を訪問した経験もあり、また、さまざまなNPOに合い、米国ではサーベンス・オックスレイ法(SOX法)がNPOにお影響を及ぼしていることなども聞いてきた。今日は、NPOの監督庁として、このニューヨーク州の司法長官室チャリティ局がどのような機能を持っているのか、また資金調達に関する規制、新しく提案されている規制法案などについて話を伺いたい。

ローゼンバーグ氏:

 まず、前提として、米国のNPOは、連邦政府の組織である内国歳入庁(IRS:日本の国税庁にあたる組織)と、州の私たちのような組織の2つから監督を受ける。我々チャリティ局は、州の司法長官室の下に置かれている。つまり、米国のNPOは、税金関係についてはIRSから、州法の執行については私たち州のチャリティ局から監督を受けることになる。

このチャリティ局には、25人の弁護士と6人の公認会計士がいるが、NY州には約5万のNPOが存在することを考慮すると数は非常に少ない。任務は、調査(investigation)と監督(regulation)である。

調査は、次の3つの場合に実施する。1つは、当局の会計士がNPOから提出された財務諸表を見て、問題を発見したり重要な情報が欠落している時、また支出額がNPOにしては大きすぎる場合であり、弁護士に知らせることになる。2つ目は、市民やNPO内部の職員や事務局長からの告発であり、3つ目の情報源はメディアのニュースだ。

チャリティ局が調査をすべきだと判断した場合は、司法長官室執行部からその許可を得ることになるが、我々の提案はほとんど承認が得られている。許可がおりると証言を取り、関係書類を集め、場合によってはNPOを訪問し、苦情を申し立てた人と面接したりして、違法行為があるか否かを見極めることになる。司法長官であるスピッツアー氏やその他の職員にも調査をやっていることは認識してもらうよう努力している。というのは、調査対象となるNPOの理事などは、社会に認知された影響力が大きい人が多いため。

違法行為があった場合には、どのように状況を是正するかを考えるが、場合によっては何もしないこともある。違法行為があったことを裏付けるには証拠が少なすぎる場合や、NPO内部の紛争であって内部解決を促した方がいい場合、また問題の本質が公共政策に係わることであって、司法長官室としては中立が求められる場合などである。

調査をして違法行為があると決定した場合、事務局長や理事がNPOに返金しなければならなくなったり、義務を果たさなかった理事が解任されたりなどの結果が生じるが、対象となったNPOの90%以上は和解に達している。これらのケースは、誰もがアクセスできる公共の記録として残るので、しっかりしたNPOは、自分達の行動規範を決定する際の参考にしている。調査の10%程度は法廷で争うこともあるが、これらは一般の訴訟と変わりない。

調査件数は、年間で約100件ほど。訴訟の方は、それぞれが数年かかるため、常に30~40件くらいを抱えている。それ以外に、遺贈に関する何百もの訴訟ケースが存在している。これは、遺贈寄附を約束していたのに、それが履行されないため、遺族を訴えるようなものなど。

また、NY州では、NPOが持っている資産を売却する場合には、私たちと裁判所の両方の許可が必要だ。ただ、場合によってはNPOと私たちの間で合意に達しない場合もあり、裁判所の判断になることもある。最近は、生き残りをはかるNPOが資産を売却することを希望しているが、そのNPOのメンバーが反対している場合などが裁判所で扱われたりしている。資産売却の場合の私たちの任務は、そこにインサイダー取引がないかどうか、それによって理事が個人としての利益を得ることがないかどうかを見極めること。また、投票権のある会員制組織のNPOの場合には、会員への通知や、考えるための時間も与えるように監督している。

私たちの調査結果では、重大な違法行為や犯罪行為が発覚することもある。例えば、若い料理人に奨学金を出している料理業界で著名なあるNPOは、昨年の調査で前理事長が資金を横領していたことがわかった。このような場合には、私たちから犯罪取締り部門へ証拠を引き渡すことになる。このケースは、新聞記事を見て調査を開始したケースだが、前理事長はNY州の大陪審にかけられ、現在は服役中だ。

訪問団:

 資金調達に関する規制についてはどうか。

ゴールドマン氏:

 どの州も似たような業務を行っているが、私たちはNY州においてNY州民から寄附を募集しているNPO、あるいはNPOに代わって資金調達を行う営利の業者のリストを作っている。拠点がNY州内になくてもNY州民から寄附を募集しているNPOは、私たちの事務局に登録しなければならない。ただし、宗教団体は登録不要であり、これは米国憲法の修正第一項(表現の自由)によるもの。その他には、寄附額が25,000ドル以下のNPOや、会員だけから寄附を募るNPO、また、他の政府監督機関に報告が義務付けられているNPOは不要である。

登録の際には、団体名称、住所、事務局長の氏名、銀行口座、資金調達の手法、営利企業に資金調達を委託している場合にはその委託先の企業名称などを書きこんでもらう。

また、重要なものの1つは、毎年度の会計報告の提出である。これは、それぞれのNPOがIRSに提出している確定申告書と同じものを私たちにも提出すればよい。ただ、個々のNPOはそれぞれ異なる基準を用いているため、本来は統一された書式であるのに単純な比較はできない。

なお、資金調達を行う営利の業者も、NPOとの契約内容や、それぞれの資金調達活動の会計報告書を提出しなければならない。これは、非常に重要である。というのは、ほとんどの資金調達に関する苦情は、こうした業者を利用したことから発生しているから。

たとえば、NY州では毎年、電話で募金を呼びかけるテレマーケティングで、どのくらい委託を受けた業者が寄附を集め、そのうちどれくらいが実際にNPOに行っているかについての報告書を出している。それによれば、平均して30%しかNPOに行っていない。

日本でも偽NPOの募金が問題になっているということだったが、米国でも同様の事例はある。NPOを作ってその資金を私的に流用したり、あるいは集めたお金のほとんどが資金調達業者に渡ってしまうこともある。しかし、最大の問題は、法の執行者、例えば警察などの組織による募金。警察官が「寄附をすればバッジをあげる。これがあれば交通違反をしても見逃してやる」といって寄附を強要するようなケースだ。このような場合、集まった寄附はチャリティ目的ではなく、年次夕食会のような組織の行事に当てられることが多い。こうしたタイプの問題は非常に多い。

これらの是正策としては、たとえば特定の資金調達業者の活動をNY州内で禁止したり、募金の際にうたっていた本来の寄附先にお金を渡したり、犯罪行為で訴えたりすることなどである。こうした問題は、NY州だけでなく全米でみられる。そのため、全米の司法長官事務局と協力体制にある。

私たちは、毎日にように、NY州民に対して寄附に関する教育啓蒙活動を行い、いかにNPOについて正しい情報を得ることができるかを伝え、不適切な団体には寄附をしないように呼びかけている。

米国では、9.11の同時多発テロ以後、寄附金の使途に関する一般国民の意識は高くなり、それに応える形で、私たちのNPOデータベースとそれぞれのNPOの確定申告書を統合して、ホームページ上で情報をみやすい形で提供してきている。

訪問団:

 NY州では、NPOの規制に関していくつかの法案を出しているということだが、どのようなものか。NY州版のサーベンスオックレイ法(SOX法)のようなものか。

ローゼンバーグ氏:

 SOX法のなかのアイデアをいくつか抽出し、NPOに適切だと思われるものだけを取り上げようとしている。対象となるNPOは予算規模の大きな団体。法律を遵守することによってお金がかかりすぎ、本来の目的を逸脱してしまうことだけは避けたい。
SOX法の中心概念は、非常に細かい財務情報の開示。NY州に限らず、SOX法のようなものを作るか否かは議論の分かれるところ。

批判としては2点。1つは、独立した監査人によって財務情報を監査するのは非常にコストがかかること。NPOにとっては予算のかなりの部分を取られてしまうことになる。2つめは、NPOの役員は無償のボランティアが多く、日中は仕事をしていて夕方にやってからNPOの業務に係わったりしている。そうした役員が、団体の財務情報の正確性について個人的に責任を問われることになる。というのは、SOX法では、団体のトップの役員は財務諸表が完全かつ正確であることを保証しなくてはいけないという項目があるから。

そのため、3年前から多方面の意見を聞いて私たちは法案をつくってきており、SOX法とは異なる形になっている。また、大手のNPOで、そうした負担を負うことが可能なNPOにのみ適用される法案だ。NPOのやる気を妨げるのではなく、正確な財務諸表を提出することを奨励するような形にしていく。私たちとしては、誠意を持ってSOX法の一部を使い、かつNPOセクター全体を沈めることなく、必要に応じて適用できるような形を考えている。

訪問団:

 連邦レベルでは、上院財務委員会からさまざまなNPOの規制法案が提出されているようだが。

ゴールドマン氏:

 その法案について注目はしているが、州法とはほとんど関連がない。ただし、1つだけ支援しているものがある。それは、IRSと州当局との情報の共有化である。現在、IRSが問題のあるNPOを調査しても、その情報を州に開示することは禁止されている。一方で、州の調査情報はIRSと情報交換することについて制限がなく、いわば一方通行である。州とIRSが協力して仕事ができれば、NPOの保護につながると思う。

訪問団:

 IRSでは職員不足が大きな問題だということだった。NY州ではどうか。

ローゼンバーグ氏:

 一言で答えるなら「Yes」である。NY州でNPOの訴訟数が少ないからといって間違って欲しくないのだが、その理由は全てのケースに取り組むことができないからである。今すぐにでも取り掛かりたいと思うケースがあっても、人材不足で始められないというのが現状だ。

訪問団:

 日本の我々も、いろいろな制度改革が必要なことは理解している。また、世界のNPOが、アカウンタビリティ(説明責任)、信頼性、財源といった、同じような問題に直面している。そうした経験をお互いにフィードバックしていけたらと思う。


司法長官室チャリティ局はいわゆる役所であり、建物に入るにあたっては、飛行機に乗る時のようなXレイや荷物検査を受けなければならなかった。しかし、入ってみるとお二人はにこやかで、とても親切かつざっくばらんに現状をお話くださった。規模は異なるものの、日本の所轄庁のNPO担当者と似通った悩みも持っておられるようだ。今後、担当部署レベルでの交流もできるようになると意義深いかもしれないと思った。

2006.12.19

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