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職員が代表者以外の理事を兼ねるとき、雇用保険の被保険者を継続する方法

NPOでは、「理事が職員を兼ねている」又は「職員が理事になる」などの状況が起こりやすいと思われます。

代表者は雇用保険の被保険者になることはできませんが、代表者以外の理事は勤務の実態により被保険者になることがあります。

ビフォーアフター

ビフォー

現在、熱心に仕事をしてくれている職員を理事に推薦したい。しかし、理事になることで雇用保険の対象にならなくなったら、どうしよう?失業したときの給付を受けることができないと、引き受けてくれないかな。

アフター

ハローワークの確認を受けて、雇用保険は継続することができた。理事として、職員として、意欲的に業務に取り組んでくれている。

手順

1. 理事と職員を兼務する場合、業務内容や報酬(賃金)について確認する

雇用保険は、万一失業してしまった場合に、生活の安定を守り、再就職の援助をおこなうものです(求職者給付、就職促進給付)。また、定年後の再雇用などにより、賃金が低くなっても退職せずに働き続けられるように援助したり(雇用継続給付)、働く能力を伸ばすための支援(教育訓練給付)などを行っています。
その被保険者が労働者であるかどうかの判断について、ハローワークの業務取扱要領に詳細が記載されていますが、NPO法人に関しては、次のように示されています。
「農業協同組合、漁業協同組合の役員は、雇用関係が明らかでない限り被保険者とならない。その他の法人又は法人格のない社団若しくは財団(例えば、特定非営利活動法人(NPO法人)の役員は、雇用関係が明らかでない限り被保険者とならない。」

雇用関係が明らかであるかどうかを判断する資料が、2で説明する「兼務役員雇用実態証明書」等です。
職員が理事を兼務することになった場合には、理事としての業務内容と報酬、職員としての業務内容と賃金を確認しておきましょう。

2. ハローワークに、「兼務役員雇用実態証明書」について問い合わせる

雇用保険の被保険者は、「雇用される労働者」、つまり事業主と雇用関係にある者に限られます。理事の場合は、NPOとの間に雇用関係はありませんから、被保険者とはならないものです。しかしながら、理事が職員を兼ねるときに、労働者的性格が強い者については、雇用保険の被保険者になることができます。
手続にあたっては、「兼務役員雇用実態証明書」(地域により名称が違う場合があります)及び確認資料等をお近くのハローワークに提出します。東京都の場合、「兼務役員雇用実態証明書」は、下記よりダウンロードが可能です。添付する確認資料は、「登記簿謄本、就業規則、給与規定、役員報酬規定、賃金台帳、出勤簿、労働者名簿、人事組織図、定款、議事録等」となっています。たとえば、賃金台帳は、理事になる前後の数か月間が必要となるようですので、あらかじめハローワークに問い合わせて準備をされるとよいでしょう。

兼務役員雇用実態証明書(東京労働局ホームページ)
http://tokyo-hellowork.jsite.mhlw.go.jp/var/rev0/0012/0330/koyo022.pdf

3. 「兼務役員雇用実態証明書」と確認資料を準備して、ハローワークへ提出する

「兼務役員雇用実態証明書」と確認資料が揃ったら、ハローワークに提出します。
労働者的性格が強いかどうかについては、役員報酬と賃金の支給割合がどうか、就業規則の適用や勤怠管理において他の労働者と同様の取扱がされているかどうかなどの実態から、総合的に判断されます。

4. 労働保険料の計算で注意すること

ハローワークで労働者性が強いと判断された場合には、雇用保険の適用を受けることになります。兼務役員の雇用保険料を計算する場合、対象となる賃金は労働者としての「賃金」のみです。給与から控除する雇用保険料の計算や、労働保険年度更新手続の際の賃金総額の計算及び離職票に記載する賃金額の計算等において、役員報酬を含めて処理をしないよう注意しましょう。

5. 専任の理事になったときは

専任の理事になり役員報酬のみを受け取るようになったり、役員報酬が賃金を上回る等の場合には、速やかに雇用保険被保険者資格喪失届を提出することになります。

6. 理事ではなくなったときは

理事を辞任し、職員のみの立場に戻ったときにも、その状況が確認できる資料と雇用保険被保険者資格取得等確認通知書を持参して、ハローワークで手続をします。

7. 労働者災害補償保険法(労災保険)について

労働者としての身分があれば、労災保険の適用は引き続き受けることができます。ただし、理事としての職務中に事故にあったような場合には、給付の対象になりませんので注意が必要です。

コツ

どんな制度にも共通することと思いますが、労働保険・社会保険の制度には、私たちが日常あまり耳にしないものもあります。「こんな場合は、何か特別な扱いがあるのかな?」と思ったら、調べてみると思わぬ道が開けるかもしれません。ハローワークや労働基準監督署、年金事務所など、社会資源を活用しましょう。
なお、記載した手続等は、東京都内のハローワークで確認したものですが、各ハローワークによって違う場合もあります。実際に手続を行う際には、お近くのハローワークに確認されることをお勧めします。

平塚綾子

民間のボランティア活動推進機関で約20年、経理業務を中心に管理部門の仕事をしていました。たまたま就業規則を見直す機会があり、労務管理の重要性を痛感しました。
退職後、労働や雇用に関する知識を深めるために、社会保険労務士の資格を取得。「社労士によるNPO応援団」に参加しています。
経理の経験を活かして、NPOの経理業務のお手伝いもしています。
埼玉県社会保険労務士会所沢支部所属。特定社会保険労務士。

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本記事は、2014年04月01日公開時点の情報です。記事内容の実施は、ご自身の責任のもと安全性・有用性を考慮してご利用いただくようお願い致します。
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