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役員会での委任状は法令違反? 投稿者:さくら 投稿日:2007/11/06(Tue) 22:00:19 No.7370
所轄庁から、役員会の議決は意見評決で行うべきで、委任状は無効との考え方に従って運営するようにとのこと。これはどの法令に抵触するのでしょうか。所轄庁は、正会員から選任されている役員が、他の役員に委任することは二重委任にあたるような説明がなされています。ご指導ください。
Re: 役員会での委任状は法令違反? 投稿者:弁護士 浅野晋 投稿日:2007/11/09(Fri) 16:58:30 No.7372
さくら さん

 所轄庁の指導・見解は間違っています。NPO法人の理事会では、委任状による代理人の出席が認められます。

 株式会社の取締役会の場合は、委任状による代理出席は認められないとするのが一般的見解です。
 このことに関し「実務相談株式会社法(中巻)」商事法務研究会1085頁は次のように述べています。(なおこの本は、法務省民事局の担当官が執筆しており、実務の一般的見解が述べられています。)

「取締役会は、個人的才能・手腕を信頼された取締役が、その職責を果たすためにお互いに危険を交換し協議して、できる限り適切にその権限を行使するために設けられた会議体でもあるわけですから、代理になじまない会議体といえましょう。従って登記の先例も『取締役会に出席した取締役が他の取締役を代理し、取締役の過半数が現実に出席しないで作成された議事録を添付する登記の申請は受理すべきではない。』としています。」

 しかし、NPO法人の理事会の場合は、株式会社の取締役会とは違った考察が必要です。
 株式会社の取締役会は、会社法(以前は商法)においてその設置が明文で定められている法定の機関です。これに対しNPO法人の理事会は、その設置についてNPO法にも民法にも何らの定めもありません。定款で、理事会を設置するのかしないのかを自由に定めることができる、全くの任意機関です。すなわち、NPO法や民法は、理事会を設置するかしないかについて、当該団体の私的自治に委ねていることになります。それなら、理事会の運営についても、私的自治に委ねられていると解することができそうです。

 このことに関し、マンションの管理組合の理事会について、理事会に理事の代理人が出席することは違法ではないとした最高裁判例(平成2年11月26日:判例時報1367号24ページ)があります。マンションの管理組合は「建物の区分所有に関する法律」に定められていますが、理事会については「建物の区分所有に関する法律」にその定めがありません。そして、同法は理事に関して、民法の定めを準用しています。
 すなわち、「建物の区分所有に関する法律」もNPO法も、理事・理事会に関しては全く同一の法律的構造となっていますから、マンション管理組合の理事会もNPO法人の理事会も全く同じに考えることができます。
この最高裁判例は次のように述べています。

「 ところで、法人の意思決定のための内部的会議体における出席及び議決権の行使が代理に親しむかどうかについては、当該法人において当該会議体が設置された趣旨、当該会議体に委任された事務の内容に照らして、その代理が法人の理事に対する委任の本旨に背馳するものでないかどうかによって決すべきものである。
 これを、管理組合についてみるに、法によれば、管理組合の事務は集会の決議によることが原則とされ、区分所有権の内容に影響を及ぼす事項は規約又は集会決議によって定めるべき事項とされ、規約で理事又はその他の役員に委任し得る事項は限定されており(法五二条一項)、複数の理事が存する場合には過半数によって決する旨の民法五二条二項の規定が準用されている。しかし、複数の理事を置くか否か、代表権のない理事を置くか否か(法四九条四項)、複数の理事を置いた場合の意思決定を理事会によって行うか否か、更には、理事会を設けた場合の出席の要否及び議決権の行使の方法について、法は、これを自治的規範である規約に委ねているものと解するのが相当である。すなわち、規約において、代表権を有する理事を定め、その事務の執行を補佐、監督するために代表権のない理事を定め、これらの者による理事会を設けることも、理事会における出席及び議決権の行使について代理の可否、その要件及び被選任者の範囲を定めることも、可能というべきである。 」

 このように、NPO法人の理事会においては、委任状による代理人の出席を許すかどうかは、私的自治の範囲であり、当該団体の実情に応じて自由に決めることができるということになります。
 従って、所轄庁の指導・見解は誤りです。

次に「正会員から選任されている役員が、他の役員に委任することは二重委任にあたる」という所轄庁の見解はよく分かりません。「二重委任」という文言の趣旨がよく分かりませんが、これが“ある事項についての委任を受けた受任者が、その事項について更に他の人に委任する」ということを指しているとしたら、それは法的には全く問題ありません。これを一般に「復代理」といいますが、復代理人は本人の代理人として有効に行為することができます。なお、復代理については民法104条以下に定めがあります。
 所轄庁の見解は「二重委任にあたるから理事会への代理出席は認められない」ということのようですが、どうもトンチンカンな議論ですから、無視したらいかがでしょうか。
 
 なお、所轄庁とのトラブルを避けるため、上記判例が搭載されている判例時報という雑誌をコピーして所轄庁に見せたらいかがでしょうか。判例時報は大きな図書館には置いてあります。また、最高裁判所のホームページに、判例検索のページがありますので、そこから印刷ができます。判決の日付を打ち込めば、簡単にさがすことが出来ます。

弁護士 浅野晋

Re: 役員会での委任状は法令違反? 投稿者:さくら 投稿日:2007/11/09(Fri) 18:43:46 No.7373
わかりやすい解説をいただき感謝いたします。ご指摘の情報を取得の上、今後、対応を検討させていただきます。本当にありがとうございます。
Re: 役員会での委任状は法令違反? 投稿者:山岸 信一 投稿日:2009/06/01(Mon) 17:34:35 No.8618
古い話を持ち出してしまい申し訳ありません。
浅野弁護士のコメントは代理出席はOKであると書いてありますが、この最高裁判例では代理出席を認める条項が有効かどうかの判例であり、それは有効であること、およびその条項が規定されている限りは代理出席はOKであることを述べているものと解釈されます。従い、規定がなければ代理出席は認められないのではないかと思います。
規約は一般に、「総会も役員会も規約(定款)にしたがって運営されるもの」 という規定があると思います。
その中で総会については代理出席の規定があり、理事会については規定されていない場合には当然理事会には代理出席はできないというのが通常の解釈ではないかと思いますが、如何でしょうか。

なお、国土交通省のマンション改正標準規約では53条に代理出席の項目を織り込んでよいというコメントがあります。国土交通省およびマンション管理センターによるとこの最高裁の判例を取り入れてコメントを作成したのだということで、規約にその項目がなければ、代理出席は認められないというのが見解でした。

この古い話をネットで見つけたのは、理事会に代理出席を認めるかどうかでもめているためで、そのような例を探していたのです。
Re: 役員会での委任状は法令違反? 投稿者:弁護士 浅野晋 投稿日:2009/06/04(Thu) 19:23:11 No.8628
山岸 信一 さん


1、この最高裁判決について最高裁の富越和厚調査官は次のように述べています。、「本判決は、管理組合法人の理事会について、具体的な規約が予定する委任の趣旨を考慮した上で表決の代理の可否を判示したものであり、その余の法人について論及するものではない。本判決は、公益法人等について、本件におけるような理事会への代理出席を一般的に許容するものでも、又は、理事会への代理出席を一般的に否定するものでもない。理事会等への代理出席の可否はそれぞれの法人の存立根拠となる法令の目的、理事会に委ねられた権能、理事会の地位、代理の範囲、方法等を総合的に考慮して決することになろう……」(最高裁判所判例解説民事篇平成2年度429頁)
 
2、すなわち、この最高裁判決の射程距離は、“代理出席を認める旨の定款等の定  めがなければ代理出席は認められない”というところまで及んでいません。
 
3、代理出席を認める旨の定款等の定めがなない場合にどのように考えるかは、上記調査官が述べているように、「それぞれの法人の存立根拠となる法令の目的、理事会に委ねられた権能、理事会の地位、代理の範囲、方法等を総合的に考慮して決することにな」ります。

4、ところで民法104条は「委任による代理人は、本人の許諾を得たとき、又はやむを得ない事由があるときでなければ、復代理人を選任することができない。」と定めています。NPO法人の理事は当該NPO法人から委任を受けていると解することができますが、そうするとこの理事が誰かに理事会への出席し討議、議決をするには、原則として本人(当該NPO法人)の「許諾」をもらう必要があります。
 
5、定款に理事の代理人を許諾する旨の定めがあれば、これは「本人の許諾」があると解して良いことになりますので、当然理事の代理人が理事会に出席して議論し議決することが可能です。
   それでは、このような「許諾」は、定款の定め以外には認められないのだろうかというのが次の問題です。
 
6、私は、NPO法人の理事会は、NPO法に何らの定めもない全く任意の機関であること、NPO法人が「市民が行う自由な社会貢献活動としての特定非営利活動」(NPO法第1条)を行う団体であることから、NPO法人にはできるだけ広く私的自治を認めることが適当であると考えていることから、この「許諾」は、必ずしも定款だけでなく、理事会の合意や理事会会議規則などの取り決めでも差し支えないと解しています。
このような考え方によれば、代理出席について定款等で何らの定めもない場合に、ある理事が誰かを代理人として出席させることについて、理事会の合意があればそれが可能と考えて良いことになります。
 
7、ただ、このことについてはっきりした判例や学説があるわけではありませんので、私の考え方と異なる考え方もあり得ると思います。
 
8、なお、「さくら」さんの質問に対する私の2007年11月9日の回答は、当該団体では委任状による代理出席を認めているのに、所轄庁がこれを認めないという問題設定によるものです。ただ、回答を読み直してみますと、説明が不十分でした。山岸さんの問題提起はもっともです。上記の説明をお読みいただいてなお疑問が残るということでしたら、ご指摘いただければ再考してみます。
                     弁護士 浅野晋
Re: 役員会での委任状は法令違反? 投稿者:山岸 信一 投稿日:2009/06/05(Fri) 22:50:00 No.8635
ありがとうございました。
4項の民法による定義が最低限の条件づけということですね。
従い、代理出席は総会の承認が必要、あるいは理事にやむをえない状況の場合には最高裁の判例に出てくる「事故」の場合に相当し、しかも理事の委任状があれば総会の承認なしに代理出席OKとなるということと解釈できます。
私の場合はマンション管理組合の理事会のケースですが、規約に代理出席は規定してありません。一方区分所有法第54条のコメントでは、“最高裁の判例の「代理出席の条件項」を規約に入れてもよい”とあります。

すると、入っていない場合は上記民法と区分所有法の両方から考えると、代理出席は不可という理解になりますが如何でしょうか。
Re: 役員会での委任状は法令違反? 投稿者:弁護士 浅野晋 投稿日:2009/06/07(Sun) 11:10:31 No.8638
山岸 信一 さん

 最高裁の判例は、要するに、「規約において、……、理事会における出席及び議決権の行使について代理の可否、その要件及び被選任者の範囲を定めることも、可能というべきである。」というものであって、それ以上のことは述べていません。

 すなわち、理事会に理事の代理人が出席する認める規約は有効であるとの趣旨の判例であって、そのような規約がない場合に、代理人の出席が認められるのか、あるいは認められないのかについてはなにも述べていません。

 従って、このような規約の定めがない場合にどう考えるかは別の問題です。

 私は、代理人の出席を認めるのは、必ずしも規約(NPO法人の場合は定款)の定めに限らず、理事会の合意や理事会会議規則でも良いと解していますが、それもない場合は代理人の出席は不可であると解します。(但し、確立した判例や学説があるわけではありませんので、これと違った見解もあり得ることをご留意下さい。)

               弁護士 浅野晋
Re: 役員会での委任状は法令違反? 投稿者:山岸 信一 投稿日:2009/06/08(Mon) 14:22:22 No.8640
ありがとうございました。

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