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記事No 3070
件名 Re: 理事の辞任登記
投稿日 : 2004/01/21(Wed) 19:08:00
投稿者 シーズ・轟木 洋子
参照先
辞任した理事さん、

お尋ねは結構難しい問題でしたので、弁護士でシーズの運営委員である浅野晋さんに
お聞きしていました。ご質問内容を、2つに分けてご回答いただきましたので、以下、
ご参照ください。

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【第1問】 
「理事が辞表を提出した場合で、法人がその理事の辞任の登記をするまでの期間は
第3者に対しては理事としての責任を負わなければならないのでしょうか。」

一、対内関係
1、
法人の理事と法人との間の法律関係は「委任」と解されていますので、理事は民法
651条1項に基づき、原則としていつでも辞任できます。
そして辞任すると、その理事と法人との間の対内的関係については、委任関係が解
除されたことになりますので、委任に伴う権利(例えば報酬請求権)、義務例えば
理事としての職務を果たす義務)がなくなります。 このように、権利も義務もな
くなりますから、登記の有無にかかわらず(つまり登記が残っていても)、辞任し
た理事の法人に対する責任は生じないことになります。

2、
ただし、民法651条2項は
「当事者の一方が相手方の為に不利なる時期に於いて委任を解除したるときは其損
害を賠償することを要す。但し、やむを得ざる事由ありたるときは此限りに在らず。」
と定めておりますので、法人にとって「不利なる時期」に理事が辞任することは可
能ですが、それによって法人に損害が生じたときはその損害賠償をしなければなら
ないことになります。ただ、この「不利なる時期」というのがどんな時期なのか、
またそのばあいの「損害」というのはどのように評価されるのかは、解釈上なかなか
判断が難しい問題です。
例えば、総会直前に理事が辞任したため、議案書を作り直したような場合は、辞任の
事情にもよりますが、「不利なる時期」であるとして議案書の作り直しに要した費用
を「損害賠償」をしなければならない場合があり得ると思われます。
ただ、これは人によって判断が違う場合があると思います。
なお、例えば病気などの理由での辞任は、「やむを得ざる事由」ですので、どのよう
な時期であっても損害賠償の問題は生じません。

3、
なお、民法654条は、「委任終了の場合に於て急迫の事情あるときは、受任者……
は、委任者……が委任事務を処理することを得るに至るまで必要なる処分を為すこと
を要す。」と定めおりますので、このような事情があるときは、当該事務処理をする
義務があることになります。

二、対外関係(第三者との間の関係)
1、
理事の辞任後その登記未了の間に起きた事柄についての責任問題は、案外難しい問題
です。 
まず原則的なことを考えてみると、理事が在任中法人の目的の範囲で行った行為につ
いては、理事は第三者に対して個人としては原則として何の責任もありません。
例えば、「理事が法人を代表して銀行から借入れをしたが、その法人は弁済できなか
った」というような場合、銀行は当該法人に対して弁済せよと請求することが出来る
のは当然ですが、その理事に対しては何らの請求も出来ません。これは、法人が法人
として権利義務の主体となっていることから、当然のことです。
なお、当該理事がその職務権限を逸脱して借り入れをしたような場合、その理事は委
任の趣旨に反した行為をしたということになりますので、法人に対し損害賠償義務が
生じることがあります。しかし、その場合でも当該借入金の返還義務は当該法人にあ
りますので、その理事個人が銀行に責任を負うということはありません。

2、
次に、法人の目的の範囲外の行為をした場合ですが、これについては民法44条2項
(NPO法8条で準用)に定めがあり、当該理事が在職中に理事として法人の目的外
の行為の代表行為をしたり、理事会で賛成の議決をしたような場合、当該理事が第三
者から損害賠償の責任を追求されることがあります。
しかしこの民法44条2項の責任は、理事が在職中であることを前提としています。
理事が辞任すると、登記するかしないかにかかわらず法人との間では理事としての権
利義務がなくなりますので、法人の理事として対外的な法律行為(契約など)をする
ことも出来ませんし、理事会に出席することも出来ません。
従って、辞任後の理事はもはや理事ではないのですから、そもそも法人の理事として
の職務について、何もする権限がありません。
従って、何も出来ないのですから、その辞任後に他の理事がした行為や 法人の債務
等について、辞任後の理事が責任を負うことはありません。
辞任後の理事が登記未了の間にこれを隠して対外的な行為(例えば契約)をした場合、
その相手方がこのことを知らなかった(つまり現職の理事だと思っていた)場合、そ
の行為(契約)は法人とその相手方の間で有効に成立します。これはNPO法7条2
項で「……登記しなければならない事項は、登記の後でなければ、これをもって第三
者に対抗することが出来ない。」と定めているためです。
しかし、これは法人と前理事との関係では、権限のない前理事が勝手にやったという
ことになりますので、損害があれば前理事は当然その損害を法人に賠償しなければな
らないことになります。

3、
なお、株式会社の場合、取締役の辞任登記が未了であることを知りながらその元取締
役これを放置していた場合に、第三者からその元取締役に対し商法266条の3に基
づく責任追及が出来るだろうかという問題があります。
株式会社の取締役の場合、商法260条1項に基づき代表取締役の業務執行行為につ
いて監督する義務があります。従って、代表取締役が乱脈経営をしているのにこれを
放置したといった「不作為」についても、商法266条の3の責任追及が為されるこ
とがあります。
そこで、株式会社の取締役の場合、辞任後その登記が未了の間に生じた事柄について、
取締役として商法266条の3の責任追求が為される可能性があるわけです。これに
関しては最高裁判所の判例があり「……会社の代表者に対して辞任の登記を申請しな
いで不実の登記を残存させことにつき明示的に承諾を与えていたなどの特段の事情の
ない限り……責任を負わない。」との趣旨の判断が出ており、責任が生ずるとしても
かなり限定的な場合となります。
しかし、NPO法人の場合、NPO法にも民法にも上記商法260条1項、商法26
6条の3に対応する条文がありません。
従って、NPO法人の理事が辞任した後、何らの行為もしない場合においては、辞任
登記をしていなくても何らの責任も生じないと解されます。 


【第2問】
「理事の定数の三分の一を欠ける場合は新任の理事が就任するまでは職務を行わなけれ
ばならない、という規定が定款にありますが、職務というのは第三者への責任も含まれ
ますか?」

語義としては、「職務」自体には「責任」は含まれません。ただ、上記のような趣旨の
定款があるとすれば、このような定款の内容を承認して理事となったのですから、これ
に当てはまる場合には辞任後も理事として職務を遂行する責任があります。
この場合、辞任はその旨の意思表示をしたときではなく、新理事が就任を停止条件とし
て効力が発生すると考えることになります。
従って、辞任の意思表示後であっても、その職務遂行によって生じる責任は、辞任の意
思表示前と同じように生じることになります。
但し、上記二、1で述べたように、その責任が生じるのは極めて限定的な場合ですので、
殆ど心配する必要はありません。

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以上、ご参考になさってください。


シーズ事務局・轟木 洋子

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