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記事No 573
件名 Re: NPO法人の役員任期について
投稿日 : 2001/10/23(Tue) 19:32:00
投稿者 シーズ・松原 明
参照先
小林様

お返事が遅くなりすみません。

まず、理事の任期が2年であり、事業年度終了とともに任期が切れ、次の理事を選任する
総会までに日数がある場合に、「理事の欠けたる場合」になるかどうかということですが、
まず、この「理事の欠けたる場合」についての規定は、NPO法は、民法56条を準用して
います。

民法56条(仮理事)
理事の欠けたる場合において遅滞のため損害を生ずるおそれあるときは裁判所は利害関係
人または検察官又は検察官の請求により仮理事を選任する

となっています。
ただし、NPO法では、「裁判所は利害関係人または検察官又は検察官の請求により」の部
分を、「所轄庁は利害関係人の請求によりまたは職権をもって」と読み替えることとして
います。

さて、この民法56条の解釈を、民法の解釈書としてもっとも権威があるとされている
『新版注釈民法(2)』で見てみると、次のような解釈があります。

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理事が任期満了・辞任によってその地位を失った場合について、退任理事も法人との間で
信頼関係を失わないかぎり、後任者が選任されるまでの間は理事たる権利義務を有すると
の理由から、仮理事の選任申請を却下した裁判例がある(東京地決昭34・5・20下民
集10・5・1049)。
しかし、理事は任期満了・辞任によって当然に理事たるの地位を失うものであって、後任
理事の就任までの間理事つぃての権利義務を有するものではないから、やはり理事が欠け
た場合に当たると見るべきである。ただ、任期満了・辞任によって理事の地位を失った者
も、急迫の事情あるときは善処義務を負うと解すべきであるから、通常は緊急性の要件が
欠け、その点で仮理事の選任が認められないことが多いであろう。
新版注釈民法(2)387ページ

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また、これに関連して、「理事の終任・解任」に関して、民法52条(これはNPO法では準
用になっていませんが)を『新版注釈民法(2)』で見てみると、次のような解釈があり
ます。

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任期の満了によって理事はその地位を失うが、前理事の任期が満了したのに後任の理事の
選任が遅れると、法人は一時的に理事の存在しない状態に置かれ、その間法人の事務執行は
停止せざるをえないことになる。このような不都合を避けるために、定款・寄附行為におい
て、役員が辞任しまたはその任期が満了した場合においても、後任者が就任するまでは前任
者がその職務を行う旨を定めておくことが多く、また、商法は、株式会社の場合につき、任
期満了または辞任によって退任した取締役は、新たに選任せられた取締役の就職するまでなお
取締役の権利義務を有する旨を定めている(商258I)。

ところが、民法上の法人の理事については、このような規定は設けられていないから、上記
のような定款・寄附行為の定めのない場合にも同様に解して良いかどうかが問題となる。
理事=法人間の法律関係を委任ないし準委任関係と解する以上、委任終了後の受任者の善処
義務を定めた民法654条の規定がこの場合にも適用され、任期満了によって退任した理事も
後任理事が選任されるまでの間は、なお必要な処分をなす義務を負うことは否定することが
できない。

しかし、受任者たる理事がこのような善処義務を負わされるのは「急迫ノ事情ニアルトキ」
にすぎない(熊本地判昭57.5.20行集33.5.1042,福岡高判昭58.6.21,行集34.6.1005)ので
あるから、その限度を超えて、定款・寄附行為にその旨の定めがないときでも、辞任・任期
満了によって退任した理事が常に、後任理事の就任までの間なお理事としての権利義務を有
するものと解する(東京地決昭34.5.20下民集10.5.1049、公益法人実務研究会・前掲書152
も同旨か)のは、解釈論としては無理があるといわざるをえないであろう。
(入江一郎=水田耕一=関口保太郎・条解非訟事件手続法[昭38]110-111)
新版注釈民法(2)361ページ

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NPO法は、民法とは違い、役員の任期をまる2年と明確に限定しています。
このことから、理事の任期は伸張できないことになるとは解釈できますが、任期が切れた場合、
その次の総会の事務を執行できないのかどうか、仮理事を選任しなければならないのかどうか
は、解釈が分かれるところのようです。

NPO法人の役員の任期は、ほとんどの法人が事業年度と合わせた任期期間としています。
一方、役員改選はほとんどの法人が総会の決議事項としており、任期終了後に開催されること
が予想されます。

このため、この北海道の法人は設立時期が早かったので、まだ稀なケースとなっていますが、
今後、この問題が頻出する可能性があります。

松原が、弁護士の方と相談してみたところ、この問題を解決するためには、商法にあるような
規定を設ける必要があるとのことでした。

商法では、256条第3項と、258条第1項で次のように定めて、この問題を解決していま
す。

256条
(1)取締役の任期は二年を超えることを得ず
(2)最初の取締役の任期は前項の規定に拘わらず1年を超えることを得ず
(3)前2項の規定は定款をもって任期中の最終の決算期に関する定時総会の集結に至るまでは
   その任期を伸張することを妨げず

258条
(1)法律又は定款に定めたる取締役の員数を欠くに至りたる場合においては任期の満了又は
   辞任に因りて退任したる取締役は新に選任せられたる取締役の就職するまでは取締役の
   権利義務を有す

NPO法においても、この規定を追加する修正をすることによって、このような問題が生じない
ように、立法的に処理した方がいいと思われます。

シーズ事務局長・松原 明

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