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記事No 7372
件名 Re: 役員会での委任状は法令違反?
投稿日 : 2007/11/09(Fri) 16:58:30
投稿者 弁護士 浅野晋
参照先
さくら さん

 所轄庁の指導・見解は間違っています。NPO法人の理事会では、委任状による代理人の出席が認められます。

 株式会社の取締役会の場合は、委任状による代理出席は認められないとするのが一般的見解です。
 このことに関し「実務相談株式会社法(中巻)」商事法務研究会1085頁は次のように述べています。(なおこの本は、法務省民事局の担当官が執筆しており、実務の一般的見解が述べられています。)

「取締役会は、個人的才能・手腕を信頼された取締役が、その職責を果たすためにお互いに危険を交換し協議して、できる限り適切にその権限を行使するために設けられた会議体でもあるわけですから、代理になじまない会議体といえましょう。従って登記の先例も『取締役会に出席した取締役が他の取締役を代理し、取締役の過半数が現実に出席しないで作成された議事録を添付する登記の申請は受理すべきではない。』としています。」

 しかし、NPO法人の理事会の場合は、株式会社の取締役会とは違った考察が必要です。
 株式会社の取締役会は、会社法(以前は商法)においてその設置が明文で定められている法定の機関です。これに対しNPO法人の理事会は、その設置についてNPO法にも民法にも何らの定めもありません。定款で、理事会を設置するのかしないのかを自由に定めることができる、全くの任意機関です。すなわち、NPO法や民法は、理事会を設置するかしないかについて、当該団体の私的自治に委ねていることになります。それなら、理事会の運営についても、私的自治に委ねられていると解することができそうです。

 このことに関し、マンションの管理組合の理事会について、理事会に理事の代理人が出席することは違法ではないとした最高裁判例(平成2年11月26日:判例時報1367号24ページ)があります。マンションの管理組合は「建物の区分所有に関する法律」に定められていますが、理事会については「建物の区分所有に関する法律」にその定めがありません。そして、同法は理事に関して、民法の定めを準用しています。
 すなわち、「建物の区分所有に関する法律」もNPO法も、理事・理事会に関しては全く同一の法律的構造となっていますから、マンション管理組合の理事会もNPO法人の理事会も全く同じに考えることができます。
この最高裁判例は次のように述べています。

「 ところで、法人の意思決定のための内部的会議体における出席及び議決権の行使が代理に親しむかどうかについては、当該法人において当該会議体が設置された趣旨、当該会議体に委任された事務の内容に照らして、その代理が法人の理事に対する委任の本旨に背馳するものでないかどうかによって決すべきものである。
 これを、管理組合についてみるに、法によれば、管理組合の事務は集会の決議によることが原則とされ、区分所有権の内容に影響を及ぼす事項は規約又は集会決議によって定めるべき事項とされ、規約で理事又はその他の役員に委任し得る事項は限定されており(法五二条一項)、複数の理事が存する場合には過半数によって決する旨の民法五二条二項の規定が準用されている。しかし、複数の理事を置くか否か、代表権のない理事を置くか否か(法四九条四項)、複数の理事を置いた場合の意思決定を理事会によって行うか否か、更には、理事会を設けた場合の出席の要否及び議決権の行使の方法について、法は、これを自治的規範である規約に委ねているものと解するのが相当である。すなわち、規約において、代表権を有する理事を定め、その事務の執行を補佐、監督するために代表権のない理事を定め、これらの者による理事会を設けることも、理事会における出席及び議決権の行使について代理の可否、その要件及び被選任者の範囲を定めることも、可能というべきである。 」

 このように、NPO法人の理事会においては、委任状による代理人の出席を許すかどうかは、私的自治の範囲であり、当該団体の実情に応じて自由に決めることができるということになります。
 従って、所轄庁の指導・見解は誤りです。

次に「正会員から選任されている役員が、他の役員に委任することは二重委任にあたる」という所轄庁の見解はよく分かりません。「二重委任」という文言の趣旨がよく分かりませんが、これが“ある事項についての委任を受けた受任者が、その事項について更に他の人に委任する」ということを指しているとしたら、それは法的には全く問題ありません。これを一般に「復代理」といいますが、復代理人は本人の代理人として有効に行為することができます。なお、復代理については民法104条以下に定めがあります。
 所轄庁の見解は「二重委任にあたるから理事会への代理出席は認められない」ということのようですが、どうもトンチンカンな議論ですから、無視したらいかがでしょうか。
 
 なお、所轄庁とのトラブルを避けるため、上記判例が搭載されている判例時報という雑誌をコピーして所轄庁に見せたらいかがでしょうか。判例時報は大きな図書館には置いてあります。また、最高裁判所のホームページに、判例検索のページがありますので、そこから印刷ができます。判決の日付を打ち込めば、簡単にさがすことが出来ます。

弁護士 浅野晋


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