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記事No 91
件名 Re: 貸借対照表上の借入金
投稿日 : 2000/05/17(Wed) 18:31:00
投稿者 公認会計士赤塚和俊
参照先
 この質問には色々な側面がありますので、一つひとつ問題を検討したいと思います。NPO法人の規模、収益事業の規模や業種、業態によって適切な対応も違ってくるからです。
 まず、法人税法上の収益事業とそれ以外の事業について、区分経理をしているかどうかという問題です。区分経理をしていなければ、そもそも会計毎の貸し借りなどありえません。
 税法は区分経理を要求していますが、収入はともかく事務所や人も共通で一体として両方の業務を行っている場合は、厳密な区分経理は不可能です。同じ問題を抱える財団法人や学校法人の場合でも、決算上だけ、収益事業にかかわる経費を抽出し、共通経費は按分して申告用の損益計算書を作っている例も多くあります。
 そういうケースでは貸借対照表を添付しないこともよくあり、税務署もそれを容認している実態があります。ただし明文では容認する根拠はどこにもないので、運用に委ねられているとしか言えないのが苦しいところです。
 もちろん、収益事業の規模がある程度大きくて、日常的な区分も可能な業態の法人であれば、原則通り区分経理するべきです。ただし、その場合でもメインとなる収益事業とは別に公益事業と不可分の収入の中にも課税される部分があったりすると、その部分に関してはやはり後から按分したりする必要がでてきます。
 区分経理をするしないに関わらず、収益事業の申告書に貸借対照表を添付する限り、辻さんのケースではどう表示するのかという問題は残ります。これについては、「借入金」としなければいけないという理由はありませんし、実際に公益事業会計への返済を想定していないケースでは「借入金」という科目は使わないのが普通です。
 それではどういう表示をしているのかというと、公益事業会計では収益事業会計へ補填した金額を「収益事業勘定」とし、受け取った収益事業会計では「公益事業勘定」とか「非収益事業勘定」とかいう科目を使ったりします。もっと単純にどちらも「他会計勘定」を使う例もあります。いずれにせよ、どういう名称を使うかは法人の内部の取り決めであり、税務署が指図する問題ではありません。
 名称の問題よりも大事なのは、その内部的な資金の融通をどういう性格のものと位置づけるかという意思決定の方です。将来的な精算を想定するのであれば、貸した方は資産と認識し、借りた方は負債と認識して、毎期繰り越して常に残高を明らかにしておくべきです。
 しかし、税法上は収益事業とされても、団体の意識としては公益事業であり最初から赤字を想定して事業を行うこともよくあります。こういう場合は投入した資金を回収することも考えられませんから、互いに資産、負債として計上するとその残高は累積する一方になってしまいます。
 この場合は、決算期毎に「他会計繰出金」、「他会計繰入金」のような表示でお互いに損益項目に計上して繰り越さない方が賢明です。もちろん受け取った側も税金の課税対象となる収益ではありませんので、別表四で減算します。あるいは、税務署に提出する貸借対照表だけ「他会計勘定」を累計で表示して繰越していく方法もあります。この場合は税務署用の決算書と内部用または都道府県庁提出の計算書に不一致が生じることになりますが、もともと収益事業の概念も範囲も異なるのですから、全く問題ありません。
 経常的な赤字補填ではなく事業の立ち上げ資金を要しただけで、以後は収益事業単独で自立的に運営できるというようなケースでは、「他会計勘定」ではなく事業への出資金として「元入金」という科目を使うこともあります。
     公認会計士 赤塚和俊

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