記事No |
: 9803 |
件名 |
: Re: 理事の人事異動に伴う途中辞任について |
投稿日 |
: 2011/04/18(Mon) 11:27:55 |
投稿者 |
: 弁護士 浅野晋 |
参照先 |
: |
よっち さん
1、組合等登記令には罰則はありませんが、特定非営利活動促進法第7条1項は「特定非営利活動法人は、政令で定めるところにより、登記しなければならない。」と定め、同法第49条は、「第7条第1項の規定による政令に違反して、登記することを怠ったとき。」は「特定非営利活動法人の理事、監事又は清算人は、二十万円以下の過料に処する。」と定めていますので、もしかすると「過料」が科せられる可能性があります。
2、ただ、過料を科するのは裁判所ですが、実際には、登記手続の過怠があったかどうかについて、裁判所は登記所からの通告がない限り分かりません。この通告は、必ずなされるというわけではありませんので、「“運が悪ければ”過料を科せられるかもしれない」という程度に考えておられたら良いように思います。
3、なお、「過料」というのは、金銭的な行政罰なので、刑罰ではありませんから、いわゆる「前科」にはなりません。これと異なり「罰金」は刑罰であり、罰金を科せられると「前科」になります。
4、ご質問のケースでは、登記の遅延について、登記所に相談する必要はありません。
5、次に、「役員は、辞任又は任期満了後においても、後任者が就任するまでは、その職務を行わなければならない」との定款の定めについて、どのように考えるかです。
そもそも、「役員は、辞任又は任期満了後においても、後任者が就任するまでは、その職務を行わなければならない。」との趣旨の定めは、特定非営利活動促進法にも民法にもありません。
6、役員と団体の関係は委任関係ですから、役員はその委任関係をいつでも解除(つまり辞任)することができます。(民法651条1項)
役員が辞任の意思表示をした場合、すぐにその効果が発生しますから(つまり役員ではなくなりますから)、役員でもないのに「後任者が就任するまでは、その職務を行わなければならない」とするのは、明らかに異例のことです。
7、これは恐らく、民法654条の、「委任が終了した場合において、急迫の事情があるときは、受任者……は、委任者……が委任事務を処理することができるに至るまで、必要な処分をしなければならない。」と定めの場合を想定していると思われます。
8、 すなわち、辞任しまたは任期満了して役員の地位を喪失した元役員がその職務を行わなければならないのは、民法654条にいう「急迫の事情がある場合」に限ると解することができます。
9、従って、多数の役員がいて、そのうち1人が辞任したり任期満了によって退任しても特段の「急迫の事情」は生じない場合、当該の退任した役員が従来通り役員の職務を行う必要はありませんし、また既に役員ではないのですから役員の職務を行うこともできないということになります。
10、ご質問のケースは、このような「急迫の事情」があるかどうかによって判断してください。
当該理事が退任しても定款上の理事数を満たしている場合(例えば、定款で理事の数が「7人以上」と定められているときに、当該理事が辞任しても残存理事数が8人であるような場合)は、原則としてこのような「急迫の事情」はないものと解されます。
11、なお、次のような裁判例があります。これは、財団法人の寄付行為では理事の定員が10人以上20人以下となっているのに、10人いた理事の内6人が辞任して理事数が4人となってしまったという場合に、理事会で何かの決議をするために、旧民法56条に基づきこの欠員の6人分の「仮理事」の選任を求めたという事案です。(東京地方裁判所昭和34年5月20日判決(判例タイムス90号58頁、判例時報188号26頁)
このような請求について裁判所は、(1)定員を欠いているから、辞任した理事もなお理事としての権利義務を有しており、この辞任した理事を含めて理事会を開催できること、(2)新たな理事を選任して定員不足を解消することもできること、を理由に申請を却下しました。
12、なお、急迫の事情があって退任した役員が従来通り役員の職務を行う場合であっても、対外的はもはや「理事」ではありませんから、理事としての対外的代表行為はできません。内部的な職務分担について、従来通り職務権限と義務があるということにすぎません。
弁護士 浅野晋