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記事No 8628
件名 Re: 役員会での委任状は法令違反?
投稿日 : 2009/06/04(Thu) 19:23:11
投稿者 弁護士 浅野晋
参照先
山岸 信一 さん


1、この最高裁判決について最高裁の富越和厚調査官は次のように述べています。、「本判決は、管理組合法人の理事会について、具体的な規約が予定する委任の趣旨を考慮した上で表決の代理の可否を判示したものであり、その余の法人について論及するものではない。本判決は、公益法人等について、本件におけるような理事会への代理出席を一般的に許容するものでも、又は、理事会への代理出席を一般的に否定するものでもない。理事会等への代理出席の可否はそれぞれの法人の存立根拠となる法令の目的、理事会に委ねられた権能、理事会の地位、代理の範囲、方法等を総合的に考慮して決することになろう……」(最高裁判所判例解説民事篇平成2年度429頁)
 
2、すなわち、この最高裁判決の射程距離は、“代理出席を認める旨の定款等の定  めがなければ代理出席は認められない”というところまで及んでいません。
 
3、代理出席を認める旨の定款等の定めがなない場合にどのように考えるかは、上記調査官が述べているように、「それぞれの法人の存立根拠となる法令の目的、理事会に委ねられた権能、理事会の地位、代理の範囲、方法等を総合的に考慮して決することにな」ります。

4、ところで民法104条は「委任による代理人は、本人の許諾を得たとき、又はやむを得ない事由があるときでなければ、復代理人を選任することができない。」と定めています。NPO法人の理事は当該NPO法人から委任を受けていると解することができますが、そうするとこの理事が誰かに理事会への出席し討議、議決をするには、原則として本人(当該NPO法人)の「許諾」をもらう必要があります。
 
5、定款に理事の代理人を許諾する旨の定めがあれば、これは「本人の許諾」があると解して良いことになりますので、当然理事の代理人が理事会に出席して議論し議決することが可能です。
   それでは、このような「許諾」は、定款の定め以外には認められないのだろうかというのが次の問題です。
 
6、私は、NPO法人の理事会は、NPO法に何らの定めもない全く任意の機関であること、NPO法人が「市民が行う自由な社会貢献活動としての特定非営利活動」(NPO法第1条)を行う団体であることから、NPO法人にはできるだけ広く私的自治を認めることが適当であると考えていることから、この「許諾」は、必ずしも定款だけでなく、理事会の合意や理事会会議規則などの取り決めでも差し支えないと解しています。
このような考え方によれば、代理出席について定款等で何らの定めもない場合に、ある理事が誰かを代理人として出席させることについて、理事会の合意があればそれが可能と考えて良いことになります。
 
7、ただ、このことについてはっきりした判例や学説があるわけではありませんので、私の考え方と異なる考え方もあり得ると思います。
 
8、なお、「さくら」さんの質問に対する私の2007年11月9日の回答は、当該団体では委任状による代理出席を認めているのに、所轄庁がこれを認めないという問題設定によるものです。ただ、回答を読み直してみますと、説明が不十分でした。山岸さんの問題提起はもっともです。上記の説明をお読みいただいてなお疑問が残るということでしたら、ご指摘いただければ再考してみます。
                     弁護士 浅野晋

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