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2002年の報告

2007年08月29日 11:58

「シーズ・NPO・マネジメントセミナー(東京)」報告

「先行事例に学ぶ 人を巻き込む活動戦略とは」

日本財団助成事業

 シーズは、7月23日(火)午後7時より、中野サンプラザ8階研修室1にて、標記のセミナーを開催した。シーズでは、日本財団より助成を受け「NPOの事業展開」に関する調査を実施している。このセミナーは同調査の成果発表会という位置付けで行った。

 講師はシーズ・事務局長の松原明と、この調査を担当した鮎川葉子。

 事例発表会というこの種のセミナーでは、取り上げた団体の方を招いて質疑応答することが多い。しかし、シーズでは、先行事例には分野を超えた共通した事業構造があることに着目、その構造に従って、調査を担当した鮎川が説明をする、というスタイルをとった。

 参加者は約40名。ほとんどがNPOで実際に活動している方々で、アンケートでは「考え方の整理ができた」、「企業や参加者をどのように巻き込んでいったらいいか悩んでいたので参考になった」「NPOに特化したノウハウ紹介等のセミナーはまだ少ない中で、とても有意義な内容だった」などの感想をいただき、好評だった。

 以下に概要を報告する。


 1998年にNPO法が成立してから現在まで、7500を超えるNPOが誕生している。しかし、「NPOになったのはいいけれど、どのように運営したらいいのか分からない」という声があがっているのが、ここ2~3年の状況。

 NPOが今後どのように発展していくのか、ということについては、一般に次の3つの道があるといわれている。

  1. 企業化の道

     利用者や受益者から対価を得て活動していく道。コミュニティビジネスや介護保険事業を行うなど、企業に近いような、料金収入を得て発展していくスタイル。
  2. 行政の補完化の道

     我々は「行政の下請け」といっているが、行政からの委託事業を受けながら発展していく道。経済産業省が2002年2月にNPOの今後の発展予測についてのレポートを発表したが、そのなかで、NPOの成長の源泉の大きな要因として、行政からの事業の移行をあげている。
  3. 第三の道

     企業化でもなく、行政の補完化でもなく、NPOの独自性を確立していく、という方向。

 現在は、この3つが渾然一体となっている状態。シーズではこの3番目の道を実現するという思いで活動してきたが、本当にこの3番目の道で、サービスを提供し、経済的にもやっていけるのか。もし、可能であるなら、それを成立させている社会的背景やニーズはどのようなものか、という点を見極めるために今回の調査を実施した。

 今回取り上げたのは、4団体。NPOの特徴をよく表していると思われる800から900の事業をリストアップし、分析した。今回ご紹介するのはほんの一部であるが、どれも特徴的な事業構造をもっており、分かりやすい。それを事業展開の順にご説明する。

■ ささえあい医療人権センターCOML「病院探検隊」

~COMLのトレーニングを受けた市民による「探検隊」が、病院の設備やサービスをチェックし、病院にフィードバックする、という事業~

 どの事業にも、次のような事業展開のプロセスがある。

  1. アイデア
  2. ニーズの分析
  3. プロトタイプ(試作品)の開発
  4. システム化
  5. 広報

1.アイデア

 多発する医療過誤や薬害訴訟などでの被害者救済の難しさなどから、医療不信が広がり、そのような状況をなんとかしたい。

2.ニーズの分析

 病院側には、このような不信感を払拭し、開かれた病院であるという印象を市民に知らせたい、というニーズがあり、市民側には、将来患者になる可能性は誰にもあり、医療の現場を知りたいという高いニーズがあった。

3.プロトタイプ(試作品)の開発

 そのような社会背景から、理解のある病院の見学会を開いたのが、この事業の最初である。

4.システム化

 しかし、ただ見学するだけでは、病院の宣伝にしかならないことが判明。その反省から、あらかじめ質問事項を整理し、医療の知識をつけ、評価のポイントや方法を検討。探検隊実施後は、医療スタッフや管理者に評価をフィードバックするというシステムを確立した。この評価に関しては、COMLのニュースレター上でも発表している。ニュースレター購読者は約1500人。

5.広報

 口コミや、ニュースレターにより、病院からの依頼が増え、今はすべてに応じられないほど人気の事業となっている。

 この事業を総括すると、探検隊に参加した市民は、病院の仕組みもよく分かるし、問題と思うことを病院にフィードバックすることで、医療を改善できる。病院からすれば、自分達の改善もできるし、宣伝にもなる。というように、両者のニーズがうまくマッチして、結果的には両者のニーズが満たされ、「医療自体を変革する」というCOML自体の目的が達成されている。

 このように、NPOの事業は多様なニーズをうまくマッチングすることで、目的を達成していくという特徴がある。多様なニーズをどのようにマッチングし、どう実現していくか、ということをもう少し見ていきたい。

■ HIVと人権・情報センター「ヤング・シェアリング・プログラム」

~エイズについて関心の高い若者が、エイズ啓発のためのプログラムを開発し、学校など若者のいる場で実施、若者同士の対話を推進し、自尊感情や共感力を高めることを狙いとする事業~

1.アイデア

 HIVと人権・情報センターでは、エイズの不安に答えるホットラインを実施していたが、その内容を分析すると、若い人の不安が大人以上に深刻であることが判明した。

2.ニーズの分析

 若者は、性やエイズに関する知識が乏しいまま性行為をもつことに不安を感じており、一方学校は、生徒に働きかけるうまい方法が見つからず困っており、社会教育施設や保健関係者は、エイズ予防を進めたいのに、学校に受け入れられないという悩みを抱えていた。

3.プロトタイプ(試作品)の開発

 同センターでは、学校の教師向けに「授業をつくる相談」を行ったが、相談自体があまりなく、教師にニーズはあまりないと判断した。

4.システム化

 そこで、直接若者を対象とした事業に組替え、さらに、若者同士で対話を促進する方法であればどうだろうか、ということで、このプログラムを実施。従来の性教育であれば、上から下への知識の伝達であったものが、若者同士で対話することで、エイズのことのみならず、自分を大切にする感情などを共有することができるところまで発展した。

5.広報

 トレーニングを受けた若者の数に追いつかないくらい、依頼がある。ターゲット別(ボランティア・学校・感染者向けなど)のパンフレットや解説書を作成するなど、パブリシティに工夫を施し、依頼のあった学校関係者には、人権啓発に使える特別予算があることなどを示唆、予算獲得につなげてもらっている。

 この事業で注目すべきところは、若者同士ではお金は生まれないが、その関係性を利用したいという層がたくさんいることを活用していることである。この場合は、エイズ予防教育を進めたい学校や保健関係者と、彼らが使える性教育や人権啓発用に使える予算。NPOは、啓発活動など、社会教育活動をしているところが多いが、イベントを開催してもなかなか人が集まらない。知らせたい人から直接お金を引出すのではなく、その層とは違うところにお金をだす人がいる、ということを普段から探しだしておくことが大切である。

■ 京都フィルハーモニー室内合奏団(京フィル)「参加型コンサート」

~プロによる指導を受けた市民が舞台にたち演奏するコンサート。このコンサートは無料で実施されるものの、募金箱が設置され、そこで得た収益は福祉団体に寄付される。福祉団体に対するチャリティなので、企業からの協賛金や助成財団からの助成金を得ることに成功している~

1.アイデア

 音楽に興味のない人にコンサート会場へ足を運んでもらい、質の高い音楽に接する機会を提供したい。そのことで音楽文化を支える土壌を作りたい。

2.ニーズの分析

 舞台にたち、演奏したい市民はたくさんおり、それがプロの指導であればなおさらである。また、たくさんの人が集まるイベントで、芸術に協賛金をだせば、企業イメージにプラスだと考える企業もある。また、福祉の団体のためのチャリティコンサートであれば、福祉系の助成財団から助成を受け易い。

3.プロトタイプの開発

 普段から、「楽器と親しむコンサート」、「お茶とケーキがついているコンサート」、「森の中で聞くコンサート」、「楽器をつくる」などを市民に親しみ易いテーマを設定し、低価格でコンサートを実施しており、京フィルが楽しいことをしている団体であるとの評価を定着させていた。

4.システム化

 上記のような試験的な参加型コンサートから、人をひきつけるよい演奏に、十分なニーズがあることを実感、チャリティコンサートを開きたいほかのNPOに打診し、協力関係をつくったうえで、大規模(1500人)なコンサートを計画。演奏したい市民は舞台に、さほど音楽に興味のない人もチャリティであることや無料であることから、会場にきたいと思わせることに成功。京フィルとしては利益はでていないが、これだけ多くの市民に音楽に触れる機会を提供できている。

5.広報

 福祉団体に対するイベントであることから、企業や助成財団の理解を得やすく、また、豪華なコンサートに比べて、チラシなどのコストを下げることが可能。企業からの協賛金でほぼまかなえている。さらに、関係する市民が多いため、自然と人が集まる仕組みとなっている。

 チャリティといえば、本業を助けるために副業として行われることが多いが、この事業は、チャリテイコンサートを開くことで、音楽ファンを増やすことに成功している。逆転の発想である。目的を達成するためにはさまざまなツールが使える。その特徴を顕著に表しているのが次の事例である。

■ サンクチュアリジャパン「ウミガメ放流会」

~ 孵化したアカウミガメのこどもを海にかえす「放流会」という事業。希少性が高いウミガメという動物の保護活動を通じて、自然体験の機会を提供。~

1.アイデア

 身近な自然である、海浜の自然を守りたい。海岸環境は微妙なバランスで成り立っており、一度破壊されたら修復が難しい。

2.ニーズの分析

 海岸の環境は当り前の風景であり、それを守るためにはどう海浜に価値づけをするかが重要である。この団体の場合は、偶然報道された「アカウミガメの産卵」の記事に着目、調査活動から、遠州灘が日本でも有数の大規模な産卵場所であることを明らかにした。このことで、カメが好きな人、カメを海にかえすという感動的な場面を見てみたい人、自然保護をしたい人、動物の保護活動に参加したい人などのニーズがあらたに生まれた。

3.プロトタイプの開発

 サンクチュアリジャパンは、1979年から遠州灘に流れ込む馬込川の開発反対運動をしていたが、このときはツバメをシンボルとしていた。浜松市内を中心に11万もの署名を集めることに成功していたが、現在のように全国に知名度をもつようになるには至っていなかった。

4.システム化

 絶滅危惧種であるアカウミガメの調査活動をすることで、浜松市や静岡県からの委託を受けるようになり、公的なかたちで、アカウミガメの産卵を見守るとともに、産卵した卵を四輪駆動車や盗掘者から守る孵化場に移動、そこで孵化したコガメを海にかえすことが、認められることになった。8月という親子が参加しやすい夏休みの時期から、毎日孵化するコガメを海にかえす、「放流会」を実施。秋まで毎日開催する。その時期にはマスコミにも大きく取り上げられ、時に1回で1000人を超える参加がある。浜松市民であれば、誰でも一度は参加したことのあるイベントとして定着している。

5.広報

 ニュースレターやWEB上で発表するほか、マスコミの報道が寄与。1年間で約5万人の参加を実現している。

 自然保護運動や開発反対運動では往々にして、署名活動をし、それをもって開発主体に訴えるという手法がとられるが、これでは、なかなかうまくいかないのが現状。しかし、カメという、保護したい自然のなかから発見した動物をシンボルとすることで、カメが好きな人、カメを触ってみたい人、カメの生態について調査したい人などが現われ、行政に対しても、絶滅危惧種の動物がいるなら、調査・保護しなければならないという責務を与えてしまった。このことで、本当は開発したい行政による調査をすればするほど、関係者が増え、その海浜の価値があがり、ますます開発できない、という結果を生んだ。


 このように、何を媒体とすれば、関係性が生まれるか、ということは、NPOにとっての重要な戦略づくりの鍵となる。人は、関係性にお金を払うものだ。相手を変えたい、と思うとき、変えたい主体に直接訴えかけるのではなく、その周りにさまざまな関係者やニーズがある。それをひとつひとつ拾い上げ、分析し、結びつけることが大切だ。

 NPOの事業には大きく2つがあると思っている。ひとつは、お金を稼ぎだせる事業。もうひとつは、お金の生めない事業である。NPOの多くは、貧しい人であるとか、海外の難民、豊かな自然環境など、お金をもらうことのできないもののために活動している。しかし、そのなかでよく考えると、その関係性を利用したい人、お金を払ってでも知りたい人というのはたくさんいる。その関係性をマッチングし、人々が受け入れやすく参加しやすい商品へとパッケージ化すれば、今回の事例のようにお金が集まり、支援者も増える。そして、この収益を生む事業が実は、本来の目的とする活動を補完、補強し、支えていくのであり、重要な活動なのだ。

 「関係性の発掘と開発」。これがNPOの発展の可能性を示すキーワードである。

報告:安部嘉江

2002.07.30

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